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ハワイ旅行2週間で総費用250万円…日本経済停滞の影響、海外旅行は遠い存在に

文=A4studio
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ハワイ(「gettyimages」より)

 8月25日放送の情報番組『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)で、ハワイ旅行に訪れた4人家族の日本人観光客を取材したところ、2週間の旅行でかかった費用がなんと250万円にものぼったと紹介されていた。コーヒー1杯が1400円、ラーメン店を家族で利用して1万円以上かかったなど、衝撃的な物価高騰が起こっているようだ。そんな物価高騰にもかかわらず、ハワイ旅行の予約者数は昨年の10倍にまで増えているという。

 そこで今回は、観光学に詳しい駒沢女子大学の准教授・鮫島卓氏に、ハワイの物価高騰の背景や、一般庶民では海外旅行に手が届かなくなりつつある現状などを解説してもらった。

海外渡航自由化で初めて開かれた桃源郷……日本人がハワイを好きなワケ

 日本政府観光局が出している統計「各国・地域別 日本人訪問者数」の2016年のデータを見ると、1位の渡航先は約357万人でアメリカとなっており、とりわけハワイの人気が高いようだ。まず、こうした日本人のハワイ好きはいつから始まったのだろう。

「日本の海外渡航の自由化は、1964年に行われた外為規制の緩和措置によって初めて解禁されました。当時、海外旅行にかかる代金は日本人の平均月収の約10倍に達することもあったので、庶民が海外旅行を楽しむには、航空会社や旅行会社が取り扱った旅行積立などの利用が不可欠でした。そんな旅行積立プランによる最初の行き先が欧州とハワイだったのです。その後、日本でハワイは爆発的な人気を獲得し、バブル崩壊直後の1997年には最盛期を迎え、同年のハワイへの年間渡航者数は約222万人にも及び、日本人海外旅行ナンバーワンの渡航先となりました」(鮫島氏)

 その後、日本経済は長く続く低迷期を迎えるわけだが、鮫島氏いわくそれでも海外旅行人気はしばらく衰えなかったという。

「それから2008年にリーマン・ショックが起きたことで日本人のお財布事情が厳しくなり、翌年のハワイ渡航者数は116万人にまで激減します。しかし、このショックは徐々に沈静化。2011年には円高が進行し、対ドルレートで1ドル80円台まで達していたので、低迷期を迎えてもなおハワイは日本人にとって割安な旅行先でした。

 実際、ヒルトンホテルに3泊5日のハワイ旅行ツアー料金がなんと5万円台というものもありました。現在、同じツアーであれば20万円はしますから、その差が明らかです。その後、コロナ禍直前の2018年や2019年頃は、年間約150万人から160万人前後の渡航者数まで回復し、安定していました」(同)

経済低迷、コロナ禍、ウクライナ侵攻でハワイへのハードルは上がり続ける

 そんなハワイ旅行が今、驚きの物価高騰で世間を騒がせている。番組ではラーメン店で家族で1万円以上かかったなどのショッキングな情報も飛び出していたが、これは本当なのだろうか。

「4人家族で1万円ということは単純計算で見るとラーメン1杯で2500円くらいの計算になりますが、現在の状況を考えると妥当な金額です。こうした高騰は当然その他の飲食店や服飾店、レジャー施設でも同様。観光費用の高騰もそうですが、航空券に付加される燃油サーチャージの高騰も顕著で、こちらの負担のほうが旅行者的には厳しいでしょう」(同)

 こうした物価高騰は、大きく2つの原因に分かれていると鮫島氏と続ける。

「価格高騰には長期的理由と短期的理由の2つがあります。長期的理由から述べますと、日本はずっと経済成長の鈍化とデフレ状態で、20年以上平均賃金はほぼ変わっていません。ついに韓国にも抜かれてしまいました。一方で、世界の経済成長は日本よりも高く、賃金も比較的上昇傾向にありました。特にアメリカは経済成長に伴って物価も上昇しているのですが、所得も同時に上がっていました。経済の低迷を続けている日本との差が徐々に開いていく傾向がコロナ禍前から見られました。ですから、海外渡航時、日本人にとって相対的に物価が高く感じてしまうのです。

 さらに短期的な理由として、コロナ禍とロシアによるウクライナ侵攻の影響が加わります。コロナで航空便やホテルの供給量が大幅に小さくなったため、商品単価を上げざるを得ません。また、ウクライナ侵攻で石油や天然ガスの禁輸措置や小麦などの生産量が減少してしまった影響で、世界的に輸入原材料の価格が高騰したことも、物価高騰の要因といえるでしょう。さらに最近のドルに対する急激な円安は、海外旅行の負担額増加に拍車をかけています」(同)

 だが、こうした状況でありながら、ハワイへの日本人観光客は増加中だとも報じられている。

「これは『何と比べて増加しているのか』に注目する必要があります。確かにコロナ禍による渡航制限の厳しくほとんど渡航者がいなかった前年に比べれば、旅行予約数は何倍にも上昇しています。これは今まで行けなかった分を取り返そうという消費者による予約で、俗に“リベンジ消費”と呼ばれています。ですがハワイへの日本人旅行者数の実態は、コロナ禍前のレベルには全く達していません。あくまで再生の途上という状態です」(同)

富裕層と庶民で差が広がり続ける、海外旅行というレジャーの行く末とは

 今後、ハワイに限らず海外旅行全般は、日本人にとって「庶民の贅沢」を超えるものになってしまうのだろうか。

「円安と日本の所得が低迷し続ける限りは、海外旅行のハードルが上がり続けることは間違いないですね。リベンジ消費で旅行に行ける可処分所得がある人ならいざ知らず、物価が上がる一方で所得がなかなか増えない庶民目線でいえば、コロナ禍による長い外出制限で、海外旅行がこれまで以上に特別な存在になってしまったはずです。コロナ前の2019年では、日本人の年間海外旅行者数は2000万人を超えていましたが、そのレベルに達するのは簡単ではないと思います」(同)

 最後に、今後ハワイ旅行が身近なレジャーとして戻ってくる可能性について聞いた。

「海外旅行が回復するポイントは2つです。ひとつは日本政府の水際対策の緩和のタイミング。訪日外国人のみならず日本人の海外旅行者にも、日本入国の条件としてワクチン接種や国によっては陰性証明書などの制約が課せられ、大きなハードルとなっています。世界の国々は入国規制を撤廃し、正常化している中で、日本はいまだに厳しい水際対策を堅持しています。水際対策が緩和され、開国が進めば国際線航空便の復帰や増便も促され、価格も手頃なものになっていくでしょう。

 もうひとつは、為替相場の動きです。円安は確実に海外旅行にはマイナスに働きます。これが長期的な動きとなると、ハワイは“気軽な旅行先”から“憧れの旅行先”へ変わってしまう可能性があります。為替レートは、日米金利差や経済状況によって変動しますので、日銀の金融政策や政府の為替政策の変更があるのかも注目ポイントですね。

 一方で、インバウンドには、円安は絶好の機会です。外貨を稼ぐインバウンドによって経済効果が高まれば、為替を安定化させる力が働きます。また、国際線航空便の増便も期待できるので、その意味では、海外旅行のためにもインバウンドは重要だといえます。

 いずれにせよ旅行に行きたいという人間の欲求がなくなることはありません。またコロナ禍の影響で、旅の大切さを考え直した人も多いと思います。その意味では、旅に対する価値観が変わり、よい良い旅をしたいと思う人は増えているのではないでしょうか」(同)

 鮫島氏いわく、日本人観光客の激減でハワイの人々にとっての“太客”は今、ニューヨーカーになってしまっているという。刻一刻と変わっていく日本人とハワイの関係の行く末が明るくなることを願うばかりだ。

(文=A4studio)

A4studio

A4studio

エーヨンスタジオ/WEB媒体(ニュースサイト)、雑誌媒体(週刊誌)を中心に、時事系、サブカル系、ビジネス系などのトピックの企画・編集・執筆を行う編集プロダクション。
株式会社A4studio

Twitter:@a4studio_tokyo

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