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国葬、菅氏「弔辞・使い回し」疑惑も…出来過ぎたストーリーの真偽を検証

文=Business Journal編集部
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菅義偉氏の公式サイト

 安倍晋三元首相の国葬で、菅義偉前首相が読み上げた「追悼の辞」に引用された山県有朋の歌の”使いまわし疑惑”がネット上で物議を呼んでいる。弔辞では“山県有朋の歌”の引用部分だけではなく、国葬に出席した政界関係者や現場を取材した報道関係者が首をかしげる表現があった。つまり「菅さんは本当にその場面に出くわしていたのかな」と、疑問に思える描写がいくつか織り込まれていたのだ。

 国葬挙式直後、テレビ中継を見ていた多くの視聴者から「感動した」と好評価を得た同弔辞。多くの人を感動させることになったのは、どのような描写だったのか。また、今になってメディアに突っ込まれることになった、その描写とはどのようなものだったのか。

“ライブ感”のある弔辞

 菅氏の弔辞は2つの部分で注目を集めている。そのうちの1つが冒頭で、菅氏が語った以下のような一節だ。

「ここ、武道館の周りには、花をささげよう、国葬儀に立ちあおうと、たくさんの人が集まってくれています。20代、30代の人たちが、少なくないようです。明日を担う若者たちが、大勢、あなたを慕い、あなたを見送りに来ています」

 事前に用意されているはずの文章に、当日の献花台の描写がありありと差し込まれていた。それが、テレビの前にいる視聴者や若い報道関係者に「献花台の様子を見て、当意即妙にその“くだり”を入れた」かのような印象を与えることになったようだ。

 実際に葬儀後に話を聞いた自民党衆議院議員のベテラン秘書は、この描写を挙げて「記者の質問に対する当意即妙な切り返しで注目された官房長官時代の キレの良さが戻ったかのような良い弔辞だ」と感想を語っていたし、キー局スタッフも「ライブ感があってよかったと思う」と評価していた。また武道館周辺で取材をしていた若い全国紙記者も「ストーリー性に富んだ弔辞で、菅さんはこんな文章を書けるんだとびっくりした」と語っていた。だが、全国紙デスクは指摘する。

「聞いていて疑問に思いましたよね。例えば『20代、30代の人たちが、少なくないようです』という表現は主観的な表現で、客観的に『多い』とも『少ない』とも言及していない。しかも、『ようです』と断定を避けています。玉虫色の表現で、どのようにもとれる。我々が記事を書く時にも『断定できない状況』を表す際に使う常套句でもあります。菅さんらしいなと、思いました。

 ただ、自民党青年局に与する大学生や熱心な若い党員が有給を取ってでも献花しに来るのは既定路線だったはず。だから、若い参列者が『少ない』ことはあり得なかったとは思います。予想通りだったのではないでしょうか。

 選挙報道などで、我々が事前に準備する『予定稿』と似たような構成だったんだろうな、というのが正直な感想です。実際には見ていなくても、未来を大まかに描写する方法はいくらでもあるので。もちろん、報道で予定稿をそのまま使うことはありません。現場を取材した上で加筆・修正し、事実を読者に届けます」

 菅氏は2日、『日曜報道 THE PRIME』(フジテレビ系)に出演し、この一節がどのように書かれたのかについて次のように語っていた。

「若者から安倍さんにお別れをしたいと、そういう人がたくさんいるだろうと、そう思いました。ある意味では予測だから、当たらないと大変なことになる。そこはあえて、20代、30代の人は安倍さんに対して来てくれると、そういう自信があった」

 つまり“想定通り”だったということだ。前述の全国紙デスクの指摘の通り、実際の参列者が仮に小規模であっても、逃げ切ることが可能な文章だったとも言える。

 菅氏は首相時代から、満足に記者会見を開かなかった。首相コメントでも自身の都合の悪い言質や言葉尻を記者に取らせないよう注力していた。この一節もまた、菅氏ならではの表現だったと言えるのかもしれない。

“出来過ぎた状況”とストーリー性

 もう一つの注目点が菅氏の弔辞の「ストーリー性」の最たる部分で、“使いまわし騒動”のコアともなった以下の“くだり”だろう。

「衆議院第1議員会館、1212号室のあなたの机には読みかけの本が1冊、ありました。岡義武著『山県有朋』です。ここまで読んだ、という、最後のページは、端を折ってありました。

 そしてそのページには、マーカーペンで、線を引いたところがありました。

 しるしをつけた箇所にあったのは、いみじくも、山県有朋が、長年の盟友、伊藤博文に先立たれ、故人を偲んで詠んだ歌でありました。

 総理、いま、この歌くらい、私自身の思いをよく詠んだ一首はありません。

『かたりあひて 尽しゝ人は 先立ちぬ 今より後の 世をいかにせむ』」

 “ニュースの使いまわし”批判を恐れず引用するが、この弔辞の違和感を真っ先に報じたのはニュースサイト「リテラ」だ。同編集部は1日、記事『菅義偉が国葬弔辞で美談に仕立てた「山縣有朋の歌」は使い回しだった! 当の安倍晋三がJR東海・葛西敬之会長の追悼で使ったネタを』(原文ママ)を公開した。

 同編集部は安倍氏のフェイスブックの投稿を数年分にわたって遡り、新旧安倍政権の最大支援者のひとりだった故・葛西敬之JR東海会長の追悼記事を引用。“山県有朋の歌”に関するくだりが、菅氏が国葬で読み上げた弔辞と符合する点を指摘し、菅氏が議員会館で読みかけの本を見つけたという“偶然”にも疑義を呈している。

『山県有朋 明治日本の象徴』 解説者も違和感

 山県有朋の歌が掲載されている『山県有朋 明治日本の象徴』 (岩波新書)も、一連の菅氏の弔辞騒動の焦点のひとつとなっている。朝日新聞は4日、連載『国葬を考える』で『菅前首相が引用した「山県有朋」 文庫解説者「出来すぎた話ですね」』を公開。同書の解説を手がけた北海道大公共政策大学院長の空井護教授の見解を伝えた。

 空井氏は伊藤博文と山県有朋、安倍氏と菅氏の“関係性の違い”に言及。弔辞の中にある「ストーリー性のある表現」について、以下のように疑問を呈している。

「ちょっと話が『出来すぎ』てますよね」

「しかし、安倍さんが生前読んだ『最後のページ』に、マーカーが引かれていたのを菅さんが見つけたなんて。そんな奇遇がこの世の中にはあるんですね」

 安倍氏が亡くなった直後、衆議院第1議員会館の同氏の事務所は大混乱に陥っていた。本当に、菅氏の弔辞で描写したような状態で『山県有朋 明治日本の象徴』は、安倍氏の執務室に置いてあったのだろうか。自民党清和政策研究会に所属していた元衆議院議員秘書は語る。

「もういいじゃないですか。なんでそんなことにこだわるのかまったくわからない。仮に細かな事実が弔辞の内容と違っても、今となっては、安倍さんの事務所関係者も『菅先生が弔辞で述べられた通りです』と答えるしかないでしょう。そうだったかもしれないし、そうでなかったかもしれない。そこは問題じゃない。そもそも弔辞は新聞記事じゃない。哀悼の意を、安倍さんご自身と安倍さんを慕う多くの人たちに伝えるためのものです」

 前述の朝日新聞の報道で、空井教授は社会党委員長だった浅沼稲次郎氏が1960年に暗殺された際、政敵だった池田勇人首相(当時)が衆議院で追悼演説を行い、浅沼氏の人柄や功績を手厚くたたえたことで、社会的な反響を与えた事例を挙げ、次のように述べる。

「今回私は、国葬という形式の問題よりも、『敵』や『ライバル』が追悼できるようなかたちをつくれなかったということの方を批判的に見ています。でもそれが、国葬という形式をとったことの帰結なのかもしれませんね」

 弔辞の内容もさることながら、衆参議長や最高裁長官、そして菅氏といった弔辞を読む人々の人選は適切だったのか。メディアは“国葬という形式”に対する世論の賛否を盛んに報じ、安倍氏の往年の政敵の多くは国葬を欠席することを選んだ。日本の分断を深めた“国葬”の検証はこれからが本番だ。

(文=Business Journal編集部)

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