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岡田正彦「歪められた現代医療のエビデンス:正しい健康法はこれだ!」

マスク着用廃止でコロナ感染者が急増、最新研究…「子供の発育を阻害」は本当?

文=岡田正彦/新潟大学名誉教授
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「gettyimages」より

 オミクロン変異株が中心になってからは新型コロナウイルスも弱毒化していることがわかり、世の中の雰囲気も緩んできています。マスクについても「無意味」「最初からいらないと思っていた」「子供の発育を阻害する」などの意見が、再び声高に叫ばれるようになってきました。実際のところはどうなのか、エビデンスを改めて探ってみます。

 2022年2月、米国のマサチューセッツ州ボストン市では、公立学校のマスク着用義務を廃止することにしました。それまでは、米国疾病予防管理センター(CDC)の勧告に従って、児童と教職員に対する終日のマスク着用を義務づけていたのです。

 同市には79の学区があり、それぞれ教育員会の権限の下に運営がなされていて、マスク着用をどうするかも各学区に任されていました。実態を調べたところ、協力の得られた72の学区のうち、70学区の学校がマスク着用義務を廃止し、残りの2学区が着用を継続していました。同市は、昔から疫学調査で有名な研究機関が集まっていることでも知られていますが、その研究者たちが協力してマスク着用の意義を検証し、結果を11月9日付けの専門誌に発表しました【注1, 2】。

 15週に及ぶ追跡調査の結果は明快でした。つまり、マスク着用を継続した校区で感染した児童は、1,000人当たりで60.0人、教職員で101.0人でした。一方、マスク着用義務を廃止した校区では、それぞれ2倍以上の124.1人、202.1人と増えていたのです。

 この数値を元に「差分の差分法」と呼ばれる計算で2グループ間の偏りをなくしたあと、「マスク着用をやめたことに起因する感染者の増加率」を求めたところ、以下のようになりました。

・児童:31.1パーセントの増加

・教職員:40.4パーセントの増加

やはりマスクは有効

 この論文に対して、以前からマスク不要論を主張してきた人たちは、「学童のマスクは言語の発達や、呼吸機能に悪影響を与える」「たった一つの研究で決めつけるのはいかがなものか」など反論のコメントをしています【注3】。

 これらの反論が正当なのかどうか、検証してみましょう。まず子供の健康や発育に悪影響があるかどうかですが、正面から取り組んだ研究は少なく、たとえばドイツから報告された論文は次のようなものでした【注4】。マスクをしている25,930人の子供たちの両親から、自主的に報告してもらった情報をまとめたところ、子供がイライラするようになった、頭痛を訴えている、集中できない、学校に行きたがらなくなった等などの実態が判明したとしています。

 しかし、この論文が掲載されたのは、審査の必要がなく誰でも勝手に投稿できるネット上のサイトでした。運営に当たる編集委員会は、この論文に対して「比べる相手が設定されてされておらず、親の思い込みでしかない意見を集めただけ。投稿者は、国のコロナ政策に反対するグループであることをSNS上で公言している人たちだ」との批判コメントを併記していました。学術論文としては、異例の対応です。マスク着用と子供の健康や発育との関係を調べた研究はいくつか報告されているのですが、有害であることを示す証拠は見つかっていません。

 次に、ボストン市の研究者たちが発表した論文が、唯一のものなのかどうかです。実は、マスクの効果については、インフルエンザ・ウイルスを対象にした科学的な検証が過去にいろいろ行われており、すでに有効性が証明されていました。

 たとえば2012年には、人体を模したロボットを作成し、咳やくしゃみで飛散する微粒子やエアロゾルを人工的に作って吹きかける実験が行われています【注5】。ロボットの口元には不織布マスクをつけましたが、「普通にただ着ける」→「隙間をなくすよう意識して着ける」→「きつく着ける」→「周囲に空気の漏れがないようにテープで塞ぐ」という4条件を設定し、ロボットが吸い込んだ微粒子を順に測定していきました。

 その結果、微粒子をブロックする効果は、普通にただ着けた場合で33パーセントでしたが、周囲をしっかり塞いだ場合は100パーセントになっていたとのことです。

 もうひとつ重要な研究があります【注6】。インフルエンザに感染した407人に協力を求め、それぞれの家庭で「何もしない」「手洗いだけしっかりやってもらう」「手洗いとマスクを着ける」という3グループに無作為に分かれてもらいました。その後の3日間、同居の家族に感染したかどうかを調べたところ、手洗いとマスク着用を励行した家庭では、何もしなかった家庭に比べ、感染が3分の1に留まっていました。

 マスクは有効です。ただし素材よりも着け方が大切です。鼻の周囲、頬、顎の下に隙間ができないようにしましょう。社会生活をもとに戻すことも大切ですから、外出先、会社、学校などでマスクを着けたくない人は外してもよいでしょうし、コロナもインフルエンザも絶対に感染したくないという人は、やはり着用を続けるべきです。

(文=岡田正彦/新潟大学名誉教授)

参考文献

【1】   Cowger TL, et al., Lifting universal masking in schools – Covid-19 incidence among students and stuff. N Engl J Med, Nov 9, 2022.

【2】   Raifman J, et al., Universal masking policies in schools and mitigating the inequitable costs of covid-19. N Engl J Med, Nov 9, 2022.

【3】   Rabin RC, Masks cut covid spread in schools, study finds. New York Times, Nov 10, 2022.

【4】   Schwarz S, et al., Corona children studies “Co-Ki”: first results of a Germany-wide registry on mouth and nose covering (mask) in children. Res Sq, Feb 21, 2021.

【5】   Lai AC, Effectiveness of facemasks to reduce exposure hazards for airborne infections among general populations. J R Soc Interface, May 7, 2012.

【6】   Cowling BJ, Facemasks and hand hygiene to prevent influenza transmission in households. Ann Intern Med, Oct 6, 2009.

岡田正彦/新潟大学名誉教授

岡田正彦/新潟大学名誉教授

医学博士。現・水野介護老人保健施設長。1946年京都府に生まれる。1972年新潟大学医学部卒業、1990年より同大学医学部教授。1981年新潟日報文化賞、2001年臨床病理学研究振興基金「小酒井望賞」を受賞。専門は予防医療学、長寿科学。『人はなぜ太るのか-肥満を科学する』(岩波新書)など著書多数。


岡田正彦

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