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「永遠の化学」に汚染された東京・多摩地域…肝臓がん発症リスクは4倍以上か

文=深月ユリア/ジャーナリスト:外部執筆者
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「永遠の化学」に汚染された東京・多摩地域
「Getty Images」より

 複数の市民団体の調査により、東京都多摩地域の井戸水が、長期間にわたり有機フッ素化合物(PFAS)に汚染されていることが判明した。

 有機フッ素化合物は、いわゆる「焦げ付かないフライパン」などの調理器具のコーティング材や、衣服の撥水加工、洗剤、シャンプー、消火剤など多くの家庭用品に含まれているが、自然環境や体内で分解されにくく何十年も残留するので、「永遠の化学物質」とも呼ばれている。

 かねて有機フッ素化合物の人体への有害性が研究されてきたが、米名門大の南カリフォルニア大学が行った最新研究によると、「『永遠の化学物質』が、肝臓がん(非ウイルス性)のリスクを4~4.5倍に高める可能性がある」という。

 有機フッ素化合物は肝臓の代謝に悪影響を与え、非アルコール性脂肪肝(NAFL、アルコール摂取に関連しない肝臓疾患)を発症し、やがて肝臓がんに至る危険性が高まるが、すでに25%のアメリカ人がNAFLを抱え、2030年にこの割合は30%にまで増える恐れがあるようだ。

 有機フッ素化合物は、国連のストックホルム条約会議で「危険な化学物質」として認定され、 世界各国は規制を始めた。昨年6月、EPA(アメリカ環境保護庁)は家庭用品に使用される「永遠の化学物質」の含有許容基準を99%以上も下げることを発表した。それでも、複数の専門家によると、「すでに多くのアメリカ人が健康を害している恐れがある」という。

 日本では2010年にPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸、PFASの一種)、2021年にPFOA(ペルフルオロオクタン酸、PFASの一種)の使用・製造が原則的に禁止されたが、それ以前に膨大な量の「永遠の化学物質」が環境を汚染してきた。井戸水・水道については環境省が基準値を定めているが、血中濃度に関する基準値は定められていないため、欧米に比べて「規制が緩い」という指摘がある。

人体に長年にわたり蓄積してきた「永遠の化学物質」

 市民団体「多摩地域のPFAS汚染を明らかにする会」の根木山幸夫氏は、次のように語る。

「2002年より京都大学医学研究科が全国の河川などを調査した結果、多摩川から高濃度の有機フッ素化合物が検出されました。しかし、東京都が有機フッ素化合物について公表したのは2019年です。同年、国分寺の井戸水が管理目標値以上の有機フッ素化合物が含まれていることがわかりました。

 そして2022年11月23日と12月3日、国分寺市や小平市などの住民を対象に調査したところ、有機フッ素化合物のひとつであるPFHxSの平均血中濃度は、2021年に環境省が調査した全国の平均数値の約15倍と、大きく超えました。

 さらに、約85%の住民はPFOS、PFOA、PEHxS、PFNA(有機フッ素化合物の一種)の合計値が米国の指標値を超えていて、半数以上はPFOSとPFOAの合計値が米国アカデミーの注意喚起するガイダンス値を越えていました。

 それでも東京都は、すぐに基準値を変更するつもりはないようです」

 フッ素化合物汚染の原因は何なのか。

「横田基地や付近の半導体工場、自動車工場から排出される泡消火剤などによって汚染されている可能性が浮上しています。横田基地に限らず、沖縄の米軍基地近辺の井戸水や土壌も有機フッ素化合物汚染されていることが調査により判明しています(2022年の基地周辺の住民387人を検査したところ、27人がドイツの基準値を超えた)。

 米国防総省は米国内の基地に関しては『基地から排出される消火剤が有機フッ素化合物を排出する』ことを認めているのに、日本国内の基地に関しては公表しないのです。

 水が汚染され、プランクトンが汚染され、プランクトンを食べる魚が汚染され、魚を食べる人間の体内に有機フッ素化合物がたまる、このような負の連鎖です」

 同氏は、東京都が早急に対策を打つとともに、メディアはこの問題を広く報じるべきだと主張する。

「住民の健康被害が心配です。長期的な視野で健康被害が起きかねないので、私は医者にみてもらったほうがいいと思います。東京都は対策を打つべきです。この問題は、沖縄県では以前より報じられていましたが、全国規模で報じられたのは初めて。多くの人々に知ってほしいです」

 また、JEPA(ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議)は、長年にわたり蓄積された「永遠の化学物質」について、住民の健康被害を懸念している。

「(東京都水道局の調査により)特に汚染度の高かった場所が、国分寺市の東恋ヶ窪浄水所と府中市の武蔵台浄水所です。東京都水道局は2020年4月までに、これらの浄水所では汚染された井戸からの取水を停止し、他の汚染されていない浄水で薄めることで水道水濃度は目標値内に管理されていると説明しています。

 しかし、有機フッ素化合物は残留性有機汚染物質であり、一度体内に入った場合、体内の量が半分になるまでの期間は4~8年と長いです。地域住民は、長年にわたり高濃度に汚染された水道水を飲み続けてきました。体内にどれくらい蓄積しているのか、健康影響が出ていないのかについての調査は行われていません」(同)

 JEPAが熊本学園大学の中地重晴教授の協力を得て、国分寺市と府中市在住の市民グループを対象に調査したところ、有機フッ素化合物の一種であるPFOSに関しては環境省が発表している平均値の1.5倍から2倍高い値、PFHxSに関しては27~29倍と大幅に高い値が検出された。

 同団体は特に妊婦への影響を懸念し、「妊婦や子供の血液検査」「汚染地下水の飲用中止を徹底すること」「汚染原因の調査と汚染の浄化に取り組むこと」などを提言している。

東京都の調査は「のんびり」

 環境省は1月30日、PFASに関して専門家会議を開催し、科学的な知見に基づいた対策を検討すると発表。

 これまで、東京都の調査は随分とのんびりしている。2021年から都内260カ所の地下水でPFAS濃度の調査が開始された、調査が広範囲に及ぶことを理由に、すべての結果公表は4年後の2025年予定とされていた。

 東京都水道局(多摩地区)に取材したところ、目標値を即座に変えるつもりはないそうだ。

「国によって目標値は異なりますし、ドイツの目標値は(井戸水、水道水に特化したものではなく)環境汚染に関するものですよね。日本では令和2年4月1日に有機フッ素化合物の暫定目標値を『PFOS及びPFOAの量の和として50 ng/L以下(体重50kgの人が一生涯、毎日2リットル飲用しても問題ないとされる値)』としています。

 水道局では、定期的に検査を行い、給水栓(蛇口)における濃度が暫定目標値を下回るよう管理しています。給水栓(蛇口)において暫定目標値を超過した場合は、PFOS及びPFOAの濃度が高い井戸の運用を停止する等の対応を行っています。

 今後も継続してPFOS及びPFOAの検査を行い、水道水で安定的に目標値を下回るよう管理を徹底していきます」(東京都水道局)

 また、「汚染源は米国基地ではないか」という疑問に関しても、「消火剤は米軍基地以外からも流出しているので、汚染源が米軍基地とは限らない」として、同局は懐疑的な見解を示した。

 汚染源が米軍基地だと限らないにしても、専門家がその可能性を主張しているのなら、東京都は真摯にこの問題に取り組み、米軍基地も調査すべきだ。

 実際、2020年4月に米軍普天間基地から約22万7100リットル(原液ではなく水で希釈された量)のPFAS含有泡消火剤の漏出事故があり、このうち約14万3830リットルが民間地の河川や海に流出した。同基地では2021年8月、米軍が約6万4000リットルものPFAS含有水を日本政府や地元の合意なく公共下水道に放出して政治問題になった。

 ただし、日米地位協定がある以上、基地の土壌を立ち入り調査できるのは「環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合」に限られてしまう。米軍基地含め大規模で迅速な調査を進めるために、東京都はまず「永遠の化学物質」による環境汚染を正式な公害と認めるべきではないか。

(文=深月ユリア/ジャーナリスト:外部執筆者)

深月ユリア/ジャーナリスト

深月ユリア/ジャーナリスト

慶応義塾大学法学部政治学科卒業。深月事務所代表。数々の媒体で執筆し、女優、モデル、ベリーダンサー、FMラジオパーソナリティーとしても活動。動物愛護活動も精力的に行う。テレビ神奈川の番組「地球と共生するアニマルウェルフェア」を自社でプロデュース。著書『世界の予言2.0 陰謀論を越えていけ キリストの再臨は人口知能とともに』(明窓出版)など。

Twitter:@witchyuria

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