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NHK、日本人の半分が見ていなかった…全世帯の8割から受信料徴収、世界的に特異

文=横山渉/ジャーナリスト、協力=有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授
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NHK放送センター(「Wikipedia」より)

 NHKが昨年6月に発表した受信料の「都道府県別推計世帯支払率(2021年度末)」によれば、全国値は78.9%だった。約8割の家庭で受信料を払っていることになる。「NHKを見ないので受信料を払いたくない」――そう言って支払いを拒む人は、若者を中心に昔から結構いた。その理屈に対して、「NHKをまったく見ないなんてことあるのか」と疑問を持つ人も高齢者を中心に多くいた。

 では、NHKは本当に見られているのだろうか。NHK放送文化研究所の「テレビ・ラジオ視聴の現況 2019年11月全国個人視聴率調査から」によれば、NHK総合チャンネルを1週間に5分以上見ている日本人は54.7%という結果だった。1日ではなく1週間である。衝撃的な数字だ。この数字で果たして「公共放送」と呼べるのか。そして受信料に正当性はあるのか。『NHK受信料の研究』(新潮新書)の著者で、早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授に話を聞いた。

――この調査結果をどう見ていますか。

 週に5分というのは、驚く人も多いと思うが、NHKに限らずテレビの視聴時間は両極化している。見る人はかなり長く見ている。これは平均値なので、残りの半数は結構長時間見ているだろう。ただ、自分の感覚で「長く見ている」と思っていても、実際にはそれほど見ていない。意識的に見ているというよりも、テレビがついている環境で「流している」という感じだ。

 しかも、それはテレビがある場合の話で、学生に話を聞くと、そもそもテレビを持っていない若者も多い。NHKや受信料制度の好き嫌い以上に、テレビはいらないと考えている。圧倒的にスマホを使っている時間が長い。なんでもかんでもスマホ。パソコンを持っていなくてもスマホで済むというのが普通だ。では、スマホでNHKやテレビを見るかといえば、まず見ない。最初からテレビを持たない、テレビ見る習慣がないというほかに、見る習慣をなくしたという人もいる。かつてはまあまあ見ていたが、テレビが面白くないから見なくなったというパターンだ。それから、大事なのは、我々の自由になる時間は減っているということ。

――自由になる時間とは?

 仕事以外の余暇時間が減っているということだ。仕事から帰ってきても、まるっきり自由に使える時間が減っている。そして、やたらとメディアの数が増えている。ネットと一口に言っても、新聞・テレビ・雑誌などのネット版のほかに動画配信がたくさんある。個々人の時間は有限なので、1つのメディアに接する時間は当然短くなる。オールドメディア中のオールドメディア、NHK総合の視聴時間がさまざまなメディアに食われて減っていくのは必然だ。私はTwitterでBBCなど海外メディアを見ているが、その情報が一番早い。1~2日してネットニュースや地上波で流れる。速報性でテレビはネットに勝てない。

――これだけ多くの国民がNHKを見なくなっているなかで、受信料に正当性はありますか。

 まず、放送法の受信料規定は、受信設備を持っている人にNHKとの受信契約を義務付けているが、これは憲法に違反している。契約の自由を侵害しているからだ。この概念はBBCにはない。イギリスの場合は、BBCを含め、他の民放も含めて放送全体を見る・聞くための許可料だ。昔、ラジオを設置するには、政府に許可申請しなければならなかった。発信・送信もできるので、スパイ防止のために許可制だった。これは日本も同じだった。

 日本の放送法の特徴は、NHKと契約しなければならないということだが、海外では必ずしもそうなっていない。そして、海外では受信料制度をやめようという動きがトレンドだ。その理由は、有料の動画配信が増えているからだ。テレビの受信料を払って、動画配信も複数見るとなると、やはりNHKはいらないのではと考える。これは日本だけの現象ではない。世界中の現象だ。

――「受信料制度」を廃止して、NHKをどのようにすればいいですか。

 放送と動画配信に分け、放送はタダにして、動画配信を有料にして収益を上げる。それは公共放送であるNHKも民放も。動画配信であれば誰がどのくらい見ているか把握できる。放送では把握できない。世界的なトレンド、とくに先進国で進んでいる取り組みは、電波をオークションにかけて売っている。イギリスでは、1兆円近い税収を上げている。これを国家予算に回している。今後はドローンでも電波を使うので、電波が足りなくなる。放送用の電波を売っても、動画配信は通信回線を使うから問題ない。従量制なので、見ない人はお金を払う必要がない。

 それから、放送にはとてつもない量の電力を使う。放送局は巨大な設備を使って、大きな電力を使っている。見る側のテレビも電力を使う。エネルギー消費にとっても、カーボンニュートラルにも良くない。

受信料の正体はNHKの組織の維持費

――以前から「スクランブルをかけるべき」という声もあります。

 スクランブルをかけるにしても、放送法を改正しなければならない。だったら、そのエネルギーを受信契約義務化解消へと向けるべきだ。憲法違反なのだから。放送をタダにして、動画配信は有料にする。その同じプラットフォームにNHKも民放も入れば良い。

――NHKは組織の肥大化も問題視されています。

 現在の放送法は戦前のものとは違うが、戦後、GHQはNHKを解体して地方局を独立させようとしていた。自治体のなかで目指した番組作りをして、自治体の寄付金と交付金で自立して運営していけと。受信料を取らせない方針だった。しかし、NHKは全国的なネットワークを手放したくなくて、全国放送の組織を維持すべくGHQに取り入って、受信料制度を維持させた。だから、受信料制度を続けていると、絶対ダウンサイジングなんてやらない。彼らはさらに肥大化して、もっと給料をもらうために、受信料を上げようとする。初めから受信料の正体はNHKの組織の維持費だ。

番組制作会社は動画配信会社の仕事のほうがおいしい

――現在の受信料制度を続けると、他の悪影響も指摘されています。

 放送業界で問題なのは、番組制作会社にお金が流れないということ。多くの人はNHKの番組をNHKがつくっていると勘違いしている。以前、NHKへ調査に行ったとき、担当者が「この渋谷のセンターにNHKの社員はどのぐらいいると思いますか」と聞いてきた。私は「半分ぐらいですか」と言ったら、「いやいや、20~30%です」と。7~8割は外部の人間ということだ。NHKの番組は自身でつくっているわけではない。社外に制作を委託している。

――その構造は、民放とまったく変わらないですね。

 民放よりひどいかもしれない。NHKエンタープライズのような子会社が、外部の番組制作会社に孫請けに出す。やはり、制作会社にお金がしっかり渡るような仕組みをつくらないといけない。制作会社のジレンマは、良い番組をつくれば収入がそれだけたくさん得られるかというと、そうではないということ。そうすると、制作会社の立場からすれば、Netflixやamazonプライムの番組を優先的につくったほうがいいと考える。そのほうが見返りがあるからだ。制作費がさらにかかるような仕事のオファーが来るようになる。

――Netflixのような動画配信メディアからヒット作が生まれている理由の1つですね。

 このままだと、良質な番組はすべて外資系の動画配信に行ってしまうし、すでに起きていることだ。どうでもいいような番組を日本のNHKや民放とかがつくる。さらに深刻な問題は、良質な番組が外国の動画配信に行くと、視聴料や広告料などのお金が海外に出ていく。そして、視聴データが全部海外に流れてしまう。日本人の生活時間の使い方や興味の対象、嗜好など細かいデータだ。そうすると、日本はNetflixやamazonプライム、ディズニーなどの文化的属国になってしまう。

――文化的属国になると、コンテンツの質も変わってきますね。

 外国の動画配信メディアが何を考えるかといえば、日本人が好きそうな日本人に特化した番組をつくるのはやめようということ。彼らは、できれば何十億という人口がいるアジアという大きなマーケットで稼いでいきたいと考える。韓国のエンタメ業界やメディアはすでにそうなっている部分がある。韓国向けというよりは、日本も含めたアジアでそこそこ好かれる番組をつくろうとしている。日本は韓国の倍の人口がいるので、今のところ日本人に顔を向けて番組制作しているが、将来はわからない。

 コンテンツそのものがアジア化していく。そうすると、日本人から見て、何となく違和感を覚えるような番組が増えるだろう。それでも、今の若者にとっては問題ないのかもしれない。

(文=横山渉/ジャーナリスト、協力=有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授)

有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授:取材協力

有馬哲夫/早稲田大学社会科学総合学術院教授:取材協力

1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学社会科学総合学術院教授(公文書研究)。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『日本人はなぜ自虐的になったのか』など。
有馬哲夫

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