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テスラ、走行中の発火事故に沈黙貫く…EV、少しの損傷で修理不可能→全損は本当か

文=A4studio、協力=国沢光宏/カージャーナリスト
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「gettyimages」より

 3月26日付ロイター記事は、電気自動車(EV)は事故などで少しでもバッテリーに損傷を受けてしまった場合、修理が難しく、保険会社としてもそのまま全損扱いにせざるを得ないということが問題視されていると報じた。環境対応車の主役になると目されるEVだが、少しの故障でも廃車にして新車を購入しなくてはならないとなれば、消費者の経済的負担が大きいのはもちろん、環境にもよくない。そこで今回はカージャーナリストの国沢光宏氏に、EVのバッテリー問題にまつわる事情について聞いた。

バッテリーが損傷を受けるレベルの事故は全損になって当然

「前提として、個人的にはこうした報道はかなり偏向的なものだと感じています。というのもEVのバッテリーが事故で損傷してしまうケースですが、これはもう大事故の場合がほとんどだからです。EVの心臓部ともいえるバッテリーは、シート下の車軸部分に設置されていることが多く、この位置にあるバッテリーが損傷を受けるような事故は、搭乗者の生命が危ぶまれるような衝突で、車体そのものがグシャグシャな場合が多いのです。『バッテリーに傷がついただけで全損扱いになる』というわけではなく、『バッテリーに傷がつくようなレベルならば、そもそも大事故の可能性が高く全損扱いになるのも当然』と表現したほうが実情に即していると思います」(国沢氏)

 国沢氏いわく、「自動車保険について損害保険会社が査定する全損の基準は、主に中古車の相場価格よりも修理費のほうが上回ってしまう場合」のこと。

「確かにバッテリーケースが曲がったりするようなダメージを受けてしまうと、修理はほぼ不可能ですので交換になるのは事実ですし、バッテリーの価格が高いため、交換となると中古車の相場価格よりも修理費のほうが上回るケースが多いかもしれません。ただ私自身、日産のEV『リーフ』を2台所有していまして、オーナーとして自動車競技のラリーにそのリーフを出場させたことがあり、大規模なクラッシュを2回経験していますが、そのどちらもバッテリーは無事でした。つまり、そもそもバッテリーはそう簡単には壊れないパーツなんです」(同)

 次に気になってくるのはEVの保険料の高さだ。ロイターの記事では、EVはバッテリーの損傷ですぐ全損扱いになりやすいため、リスクを鑑みて保険会社は保険料を高く設定しているとのことだが、実際はどうなのだろうか。

「自動車保険は加入が義務となっている自賠責保険と、自主的に加入する任意保険の2種があり、任意保険の保険料をガソリン駆動の一般車とEVで比べた場合、確かに違いはあります。諸々の条件で金額が異なるので一概にはいえませんが、たとえば一般的なガソリン車の場合、任意保険の相場は年間1万5000円~7万円台といわれています。これに対しEVは、年間1万1000円~11万円台と振り幅が大きく、場合によってはガソリン車よりも高額になるケースも多いです。

 ですがその高額になりやすい理由を『EVはバッテリーの損傷ですぐ全損扱いになりやすいから』とするのは強引で、実態に即していないように感じます。実情は保険会社のみぞ知る部分なので推測になりますが、EVはガソリン車と比べれば導入されてからまだまだ日が浅く台数も少ないので、事故の統計が取りきれていない部分があり、保険会社もどれくらいの相場に設定するのが適切なのか計りあぐねているのだろうと思います。そのため保険料の振り幅も大きく、リスクを高く見積もる保険会社の場合、高額になるケースもあるのではないでしょうか」(同)

バッテリーが発火してしまう事故があるのは事実

「保険料の高さは、将来的にEVの加入車のデータが増えていけば自然と落ち着いてくるはずです。またSDGs的な観点でいえば、EVに使われているバッテリーというのは、超低温に冷凍してから粉砕と分離にかけることでリサイクルも可能です。バッテリーの主原料であるリチウムは埋蔵量に限りがあるといわれている物質なので、リサイクル技術は日々研究されています。技術がより進化を遂げて導入コストが一層安定してくれば、SDGsという面でEVの価値はさらに高まっていくでしょう」(同)

 そんなEVのバッテリーにも危険を伴う部分はあるようだ。

「現在EV業界で広く使われているのはリチウムイオンバッテリーと呼ばれるものです。なかでも『三元系リチウムイオンバッテリー』は、プラスとマイナスの電極に強い衝撃を与えるとショートし、大きな電気が流れることで熱暴走が起こり、発火してしまうことがあります。かなりの高熱を発するうえに、一度鎮火してもなかなか熱が冷めず再発火することもあるので、完全に消火させるまでには、ガソリン車の火災に比べて何倍もの時間と水量が必要になってしまう可能性があるのです」(同)

 EVの火災で思い出されるのが、テスラ製のEVが1月にバッテリーの火災事故を起こしたことだろう。

「確かにテスラの『モデルS』がアメリカのカリフォルニア州の高速道路を走行中に、突然発火して炎上するという事故を起こしています。現地当局が発表したところによれば、駆けつけた際に車体の外装に損傷は見られなかったそうです。これに対してネット上などでは、電気系統の不具合なのではという疑念の声が多くあがっていますが、その原因はいまだ不明です。というのも、テスラが事故の経緯説明をせずに、報道各社からの取材に対しても沈黙を貫いているため、事実上のブラックボックス化してしまっているからなのです」(同)

 正しい情報をもとにEV導入を検討すべきだろう。

(文=A4studio、協力=国沢光宏/カージャーナリスト)

国沢光宏/カージャーナリスト

国沢光宏/カージャーナリスト

1958年東京中野生まれ。1981年に三推社(現・講談社ビーシー)に入社し、「ベストカーガイド」編集部員を経て、1984年よりフリーに転身。数々のカー雑誌への寄稿や、ラジオやテレビといったメディアへの出演しているほか、日本カー・オブ・ザ・イヤーの選考委員も務めている。
自動車評論家 国沢光宏 公式サイト

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