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千葉哲幸「フードサービス最前線」

新橋やきとん屋「まこちゃん」、若者の街・中目黒に進出で成功の秘密…驚異的コスパ

文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト
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中目黒店の「やきとん」、1本181円

 東京・中目黒は近年飲食店街として、いっそう賑わうようになってきた。ここのポイントは、客層が若いが中高年もいること。地元住民だけではなく「食べ歩き・飲み歩き」を楽しむために遠方からやってくるパターンも定着していること。このように食の観光地となっていることから、平日・土日祝関係なくお客が多い。特に、東急東横線ガード下の各店では行列が絶えない。

 ここに「まこちゃん ナカメグロ」という居酒屋が2022年11月にオープンした。「まこちゃん」といえば、サラリーマンの聖地「新橋」にある大繁盛店「やきとん まこちゃん」を連想する人が多いことだろう。新橋に現在4店舗あるが、どの店も夕方5時を過ぎると満席になり、優に3回転、4回転している。このようにサラリーマンに愛される「まこちゃん」は、いかにして中目黒に出店することになったのだろうか。

優秀な人材を確保し新事業に挑戦

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新橋にある店の一つ「からす森口店」。店の中からお客があふれている。

「やきとん まこちゃん」を展開するのはマックスフーズジャパン(本社/東京都品川区、代表/西田勇貴)。先代の西田眞氏が1968年に創業した。同店の一番の魅力は圧倒的なコスパの高さ、「名物秘伝たれ」をうたう「やきとん」が1本160円(税込、以下同)から楽しめること。しかも見た目も大きい。串を持つと重さを感じる。優に50g以上ある。このたれは1968年の創業時からつぎ足しつぎ足しで継続してきて、肉の旨味が溶け込んでいるという。これが大振りの「やきとん」にとても良くマッチして強烈に記憶に残る。一度体験すると「また行きたい」と思わせる。

 現在の代表、西田勇貴氏(40)は先代の子息で、2019年に事業継承をして先代が築いた「新橋ドミナント」の路線を継続していくつもりでいたという。しかしながら、その翌年にコロナ禍となった。新橋ではお客が極端に少なくなった。そこで同社では、将来を見据えた対策に取り組んだ。

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新橋の店の「やきとん」、1本160円

 一番に注力したことは「社員の採用」。西田氏は「大手企業が人員整理を進めたと知って、優秀な人材を確保する絶好のチャンスだと思った」と語る。こうしてマネジャークラスの人材やデザイン事業に取り組むべくデザイナーなど十数人を採用した。コロナ禍にあってこれらの人材でさまざまな事業にチャレンジした。

 まず、独自にカレーパンを開発してキッチンカーでも営業を行った。そして「まこちゃん」ブランドで「やきとん」の催事を行った。キッチンカーはガソリン代がかさみ、売上が大きく望めないことから撤退。催事は知名度と商品力によって好調、五反田の商業施設では2週間で900万円を売った。これは事業として定着するようになった。

 店舗は新橋に5店舗あったが、一本通りを隔てた2店舗を閉店して近接する3店舗に集中した。この3店舗でも新橋で5店舗当時の売上と変わらない状態になった。引き継いだ事業の中に貿易事業があったが、これからは撤退して飲食業に集中することにした。

「ネオ大衆酒場」の次は「おしゃレトロ」

 コロナ禍ではオフィス街近くの飲食街にはお客が少なくなったが、お客が減らないエリアがあった。それは若者が集まる街である。そこで、同社では新橋一極集中ではなく、新橋とは異なる顧客がいる新天地を求めた。そこで見つけたのが中目黒で30坪の物件。

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中目黒店の店頭近くに設けられた円形のカウンターテーブルはカップル、お一人様にとって使い勝手が良い

 店名は「まこちゃん ナカメグロ」。サラリーマンの街新橋の繁盛店がおしゃれになって中目黒にやってきた、というイメージだ。西田氏は「ここで営業することは、リスクヘッジであり新しい客層を発掘すること」と語り、若者をターゲットにしたデザインで食事も楽しむことができる店づくりを心掛けた。内装はおしゃれとレトロを融合した「おしゃレトロ」。エントランスをくぐると大きな円形のカウンター席があり、内側には煮込みをつくっている大きな鍋が置かれている。料理への期待が膨らむ。

 代表の西田氏は「若者にはレトロの要素が人気。これまでネオ大衆酒場が人気を博してきたが。さらに新しいレトロの要素が必要だと考えた」という。ネオ大衆酒場はデザインそのものが昭和30年代ごろに人気を博した大衆酒場の雰囲気があるが、「まこちゃん ナカメグロ」の「おしゃレトロ」にはそのイメージがない。備品や接客の心配りにレトロを感じる。例えば、テラス席の壁にかけられてありお客が自由に着用できる「はんてん」がカラフルで、これまでに存在していない新しいセンスを感じさせる。この「おしゃレトロ」はこれから飲食空間づくりのトレンドとなっていくことだろう。

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テラス席の壁にかけられた「はんてん」。この存在感に「おしゃレトロ」の意味が感じられる

 接客の心配りもしかり。「まこちゃん ナカメグロ」を利用して驚くことは、接客する女性従業員が20代と若いながらも、お客に積極的に語り掛けること。筆者が一人で飲食をしていたところ「うちのお店のことを楽しんでいますか」と語りかけてきた。それに対して私が「なんか楽しんでいないように見えましたか」と切り返したところ「いえいえ、当店ではお客様に元気になっていただきたくて、コミュニケーションを取るようにしているのです」と言ってくれた。

 代表の西田氏も「新橋では当店を利用してくれたお客様に『明日も頑張ろう』と思っていただけるような対応を伝統的に行っている」と語る。新橋一極集中から脱して、新天地で新しい客層を発掘することを志すようになっても、お客本位の文化は継承されている。

ビブグルマンの料理人が料理を監修

 フードメニューはビブグルマン(ミシュランで5000円以下の優れた店)を取得した料理人が監修。新橋の店と同様に「やきとん」が看板商品で1本181円、さらにこちらの店はでフードメニューのバラエティを充実させて「食事ができる店」のイメージをもたらしている。中でも〆の逸品の「まこちゃん鉄板もつ焼きそば」803円は印象深い。麺はこしのある太麺の茹で上げで250g、ホルモン60gとキャベツで やきとんの「名物秘伝たれ」をベースにしたソースを絡めている。

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フードメニュー強化を象徴する「まこちゃん鉄板もつ焼きそば」803円。麺250g、ホルモン60g

 ドリンクは「名物 まこレモンサワー」616円と「瀬戸田レモンサワー」583円が印象深い。前者は店内仕込みの特製シロップにつけこんだ角切りレモンと少量のオレンジを配合。後者は広島県瀬戸田町産の無農薬レモンを低速ジューサーで絞ったもの。

 客単価は3500円を目指したが、現状は2000~3000円という。お酒の杯数は新橋エリアが3.5杯であるのに対し、中目黒は2.5杯程度となっている。これは中目黒の特徴といえることで、顧客は中目黒の飲食店のはしごを楽しみにしていることから、お酒の杯数や客単価も低めになる模様。狙い通りに20代のお客や新橋の「まこちゃん」を知る中高年など、さまざまな客層から愛される店となった。客単価が低めとはいえ、昨年11月にオープンして以来、月商は1000万円を超えている。

 マックスフーズジャパンでは、これから直営で店舗展開を推進していくのではなく「まこちゃん」伝統の「名物秘伝たれ」とモツをカップリングした卸業者としての事業を展開していく意向だ。さらにデザイン事業を整えたことから、ロゴやメニューの製作を受け入れることもできる。このような同社の変化と展望を伺っていると「アフター・コロナ」の時代に入っているのだな、と思うことしきりだ。

(文=千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト)

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

千葉哲幸/フードサービスジャーナリスト

フードサービス業界の経営専門誌である『月刊食堂』(柴田書店)、『飲食店経営』(商業界、当時)とライバル誌両方の編集長を歴任。2014年7月に独立。フードサービス業界記者歴三十数年。フードサービス業界の歴史に詳しく、最新の動向もリポートする。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)。

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