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楽天G、資金繰り行き詰まり懸念…銀行が追加融資に難色か、楽天カード上場は最悪

文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役
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楽天グループの三木谷浩史会長兼社長(撮影=編集部)

 楽天グループは10日、2023年1~6月期の連結決算(国際会計基準)を発表。営業損益は1250億円の赤字(前年同期は1987億円の赤字)、最終損益は1399億円の赤字(同1778億円の赤字)となり、携帯電話事業の巨額の赤字(1850億円)がEC事業や金融事業などの利益を食いつぶす構図が改めて鮮明に。楽天Gは携帯事業の基地局整備などの設備投資のために発行した大量の社債の償還を23年以降に控えており、その額は25年までに約8000億円。市場では資金繰り行き詰まりへの懸念も浮上するなど、経営の行方が注視されている。楽天Gの三木谷浩史会長兼社長は同日の会見で「財務的にはもう間もなく、グループ全体で黒字化というのも復活します」「楽天Gの収益構造の向上もすごいスピードで始まっています」と語り強気の姿勢をみせているが、三木谷社長がいうように同社が近いうちに黒字に転じる可能性はあるのか。もしくは、単独での存続が困難になるというシナリオは考えられるのか。専門家に聞いた。

 楽天Gの目下の経営課題は、なんといっても携帯事業だ。20年に子会社の楽天モバイルを通じて携帯電話事業のサービスを開始。どれだけ使っても月額で最大で税込み3278円(楽天回線エリアのみ/通話料等別)、さらに月間データ利用量が1GB以下なら基本料無料というプランを掲げ、翌21年には500万回線を突破したものの、昨年には1GB以下の0円プランを終了した影響で契約数が減少した。

 そうした状況に楽天モバイルは手をこまねいていたわけではない。従来の「Rakuten UN-LIMIT VII」は、月間データ利用量3GBまでは月額1078円、同3GB~20GBまでは月額2178円、データ使い放題は月額3278円であり、専用アプリ「Rakuten Link」を使用すれば音声通話とSMSは無料。ただ、データ利用量については、KDDIのパートナー回線によるauローミングサービス利用時の高速通信は月間5GBに制限されており、制限を超えると通信速度が1Mbpsに制限されていた。そこで6月1日からは「最強プラン」の提供を開始し、現行の料金体系を維持しつつ、auローミングの制限を撤廃。

 新プランの影響もあってか、今年6月時点の楽天モバイル(MNOの個人+法人)の回線数は、前四半期から24万増の481万と右肩上がりのトレンドを維持しており、会見で三木谷社長は「近いうちに500万回線を実現できる」と自信を示している。

黒字化には6年以上かかる計算

 三木谷社長の自信を裏付けるかのように、携帯事業は引き続き巨額の赤字が続くものの、同事業の営業損益ベースの赤字幅は、前年同期の2538億円から1850億円へ縮小。楽天G全体でも営業損失は前年同期の1987億円から1250億円へ縮小しており、改善の方向に向かっていることは確かなようだ。

「楽天Gは携帯事業の設備投資に当初計画の6000億円を上回る計1兆円を投入してきたが、基地局整備が一巡し、今後はがくっとその費用は減る。同社的には年内にも単月黒字化を実現すると踏んでいるが、一気に大きく黒字に転換するとは考えにくい。その一方で多額の社債返還がのしかかってくるため、綱渡りの状態が続くのは間違いない」(市場関係者)

 楽天Gの黒字化の可能性について、経営戦略コンサルタントで百年コンサルティング代表取締役の鈴木貴博氏はいう。

「楽天Gは前回の決算発表で、携帯電話事業の赤字を生み出している基地局などの投資について金額を大幅に見直すことによって赤字幅を縮小すると説明していました。今回の決算ではその公約を着実に果たした結果が出ました。その観点で比較的良い決算だったと私は認識しています。事業自体の結果を見るためには営業損益を見ると実態がわかりやすいです。前四半期の営業損失は762億円のマイナスだったのですが、今四半期は489億円のマイナスと大幅に赤字が減っています。1年前の同じ時期と比較すると367億円の収益改善です。公約通りの結果が出てきていることは評価すべきでしょう。

 しかし本当に気にすべきは、ここからいつ黒字に持っていけるかです。四半期で黒字になれば、それ以上損失が出ないので投資家や銀行の心配も止まることになります。その視点で考えると今期の収益改善は投資方針を変更した結果のコストの縮小に基づいたものなので、そのままでは今後とも同じようなレベルの赤字が続くことになります。

 ここから489億円の営業赤字をゼロに持っていくためには、携帯事業でそれを埋められるだけの収益が上がる必要があります。その際、楽天モバイルのプランではARPU(一ユーザー当たり・一カ月当たりの料金収入)をこれ以上上げるのは難しいため、増収には会員数がどれだけ増えるかがポイントとなります。単純計算で四半期で売上を489億円増やすためには、携帯会員が780万人増える必要があります。楽天モバイルはこの半年で会員数を36万人増やし、直近の1カ月でも10万人会員を増やしています。堅調な増加傾向ではあるのですが、年間120万人増ペースですから、黒字化には6年以上かかる計算です。つまり現在の延長では楽天Gの黒字化は難しい状況です。一方で楽天経済圏には4000万人のユーザーがいますから『風が吹けば悪い流れが変わる可能性はある』わけで、三木谷さんもその風を起こそうと必死なのです」

楽天Gの高収益事業を手に入れようと考える投資家や金融機関が出現するリスク

 前述のとおり楽天Gは多額の社債返還が迫るなど、資金繰りに行き詰まるリスクも指摘されているが、楽天Gの資金繰り悪化が深刻化して単独での存続が困難になる可能性はあるのか。

「ここが楽天Gの最大のリスクです。存続できるかどうかはメインバンクをはじめとする銀行団の胸先三寸といった状況です。銀行の立場で考えても黒字化に6年かかるというのでは、経済状況によっては追加融資どころか借換えの要請にも難色を示している可能性はあります。直近では米ドルでの借入金が増加しているようで、これは要するに国内の金融機関は支援に二の足を踏み始めていることを示しています。後述する楽天カード上場の話とも関係しますが、この機会に楽天Gの高収益事業を手に入れようと考える投資家や金融機関が出現するリスクも十分に考えられます。楽天解体が始まれば、それは楽天Gにとって悪いシナリオが現実化していく兆候です」(鈴木氏)

楽天市場の発展のためにポイント事業を戦略的に活用することが困難に

 その資金繰り対策として取り沙汰されているのが楽天カードの上場だ。10日、楽天Gは楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を連結子会社の楽天ペイメントに移管したうえで、楽天ペイメントを楽天カードの傘下に入れると発表。決済サービスとポイントサービス、金融サービスを一体運営していくことになるが、楽天カードを上場させて社債返還の原資にあてるのではという観測が広まっているのだ。会見で三木谷社長は上場の可能性について「資本について今のところ予定はありませんが、今後の状況を見て柔軟に考えていきたい」「(事業として)かなり大きくなってきたので、いろいろなことが考えられると思っています」と含みを持たせた。

「楽天カードの傘下に楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を集約するという機構改革の発表は、楽天の株主にとっては本当に悪いニュースで、楽天カードの上場計画が水面下で進んでいることを示しています。三木谷社長が『柔軟に考えていく』と発言しているのは、その計画を受け入れ始めたという意味だと私は捉えました。すでに上場した楽天銀行や、上場計画が進んでいる楽天証券と違い、楽天カードと楽天ポイント、そして将来性があるキャッシュレスの楽天ペイは楽天グループのビジネスモデルの中核を担う機能です。

 この新しい楽天カードはグループにとって楽天市場と二本柱になる収益事業です。なかでも楽天ポイントを楽天カードが握るということは、これまでのように楽天市場の発展のためにポイント事業を戦略的に活用することが難しくなります。そう考えると今回の機構改革は楽天グループにデメリットしかないのですが、重要なことは、なぜそれを実行したのかということです。

 理由は間違いなく資金繰りです。すでに金融機関からこれ以上お金を貸せないというメッセージを突き付けられているのでしょう。そうなると一番儲かるビジネスを切り売りするしかなくなります。今回、楽天カードに収益性と成長性どちらも機能を集約したことは、その上場益で楽天Gの有利子負債負担を軽減するという後ろ向きのメリットを追った決断であり、それは本質的には楽天Gにとっては前向きなメリットとはいえないのです」(鈴木氏)

(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役

事業戦略コンサルタント。百年コンサルティング代表取締役。1986年、ボストンコンサルティンググループ入社。持ち前の分析力と洞察力を武器に、企業間の複雑な競争原理を解明する専門家として13年にわたり活躍。伝説のコンサルタントと呼ばれる。ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)の起業に参画後、03年に独立し、百年コンサルティングを創業。以来、最も創造的でかつ「がつん!」とインパクトのある事業戦略作りができるアドバイザーとして大企業からの注文が途絶えたことがない。主な著書に『日本経済復活の書』『日本経済予言の書』(PHP研究所)、『戦略思考トレーニング』シリーズ(日本経済新聞出版社)、『仕事消滅』(講談社)などがある。
百年コンサルティング 代表 鈴木貴博公式ページ

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