いつでも気軽に通える“コンビニジム”を謳う「chocoZAP(ちょこざっぷ)」の会員数が80万人を超え、日本のフィットネスジムにおいて最大となった。競合他社がひしめくなか、事業の新規立ち上げから約1年での達成という快挙に内外から注目が集まっているが、その躍進の理由はどこにあるのか。経営戦略コンサルタントに解説してもらった。
買い物ついでや会社帰りなど、 24時間いつでも気軽に立ち寄れる“コンビニジム”を標榜しているchocoZAP。「着替え不要」を打ち出し、運動着やシューズを着用しなくてもジムワークが可能で、月額2980円(税込み3278円)と低価格。さらに、ゴルフ練習場が併設されている施設があったり、女性会員には個室のセルフエステやセルフ脱毛機が使い放題など、ジム以外のサービスの拡充も行っており、会員数は右肩あがりだという。
chocoZAPは、そのブランド名からもわかるように、結果にコミットするパーソナルトレーニングで一世を風靡したライザップグループの新業態。2022年9月に本格的にサービスを開始すると、月100店舗以上のペースで新規出店攻勢をかけ、23年8月には32都道府県で880店舗を展開。
エニタイムフィットネス(会員数78万人)やカーブス(会員数77.2万人)などの競合を退け、23年8月15日時点で会員数80万人となり、日本で一番利用されているフィットネスジムとなった。現在は出店目標2000店舗を掲げているchocoZAPの躍進と今後の課題について、百年コンサルティング代表の鈴木貴博氏に分析、解説してもらった。
「『コンビニジム』というコンセプトが非常に優れていたと思います。近年のスポーツジムは、大手クラブによる高級化の流れがあり、月会費の単価も上がっていました。そこで低価格で気軽に通えるジムへの需要が高まっており、施設などを簡素化して会費を抑えたカジュアルなジムが増えていったという流れがあります」(鈴木氏)
女性専用・30分フィットネスを打ち出したカーブス(2005年に日本1号店開店)や、24時間いつでもジムが使えることをウリにしたエニタイムフィットネス(10年に日本1号店開店)など、アメリカ発のコンパクトなジムが日本上陸してシェアを伸ばすなか、23年にライザップが立ち上げたのがchocoZAPだ。
「フィットネスジムという業種で考えると、従来のライザップと競合すると考えがちですが、同じジム事業でも、chocoZAPはターゲットとする顧客層がまったく違う。ジム運営のノウハウや、ジム用機器の調達などのリソースを共有しながらも、まったく違う市場を開拓しているという点で優れたビジネスモデルだと思います。
chocoZAPは低価格で、着替えなしでトレーニングできるなど、ジムに通うというハードルを低くしたことがポイントですが、運営サイドから考えても、物件を探してジム機器を置くだけと新規出店が比較的簡便なので、その相乗効果によって拡大戦略が可能になったのだと思います」(同)
新規出店や運営経費のコストを下げることで、月会費も下げるという戦略で新たな客層を掘り起こしに成功したchocoZAP。さらに、この短期間での躍進には、アフターコロナのタイミングもあったと指摘する。
「コロナ禍で、三密を避ける意味でスポーツジムに通わなくなり、そのまま退会してしまったという人は多いようです。そんな客層が改めて運動をしたいという需要に対して、手軽に通えるコンビニジムというのはタイミングが良かったと思います」(同)
さらにchocoZAPには、マシンの清掃などを担当することで、月会費が割引となる「フレンドリー会員」制度などのシステムがあり、新規顧客層を引き寄せているという。
「フレンドリー会員制度は、なるべく安くジムに通いたい人にとっては非常に良い施策だと思います。また、他の一般会員もフレンドリー会員が清掃していることを知れば、綺麗に利用しようという意識が芽生えるといった自治的なコミュニティが生まれる。施設側にとっては、人件費の削減や人手不足を補えますし、こうした施策も会員数の増加と急激な出店ペースを支えていると思います」(同)
大胆なアイディアと隙のないビジネスモデルで、目標とする2000店に向けて加速していくchocoZAP。しかし、懸念点は大きく2つあると指摘する。
「まずは、急拡大による歪みですね。とにかく新規出店することに注力してしまうと、人材不足などが常態化し、サービスのクオリティが下がってしまうことはよくあります。また、混雑時の分散という意味で既存店舗の近隣にも新規出店するドミナント戦略を行っているようですが、いわゆるカニバリが起こる可能性もあり、店舗同士で会員の奪い合いになってしまうこともあるのではないでしょうか」(同)
新たな顧客層を掘り起こしているが、その新規会員たちが今後どういった動きをしていくかという予測は難しい。また会員数と店舗数のベストバランスなどについても、これから模索していくことになるだろう。
「もうひとつは、『コンビニジム』という業態の参入障壁の低さです。物件があればジム道具を搬入するだけという新規出店のしやすさについて解説しましたが、これは追随する他社も真似しやすいということ。新規ベンチャーなどが、さらに低価格のオペレーションで参入してくる可能性があり、そうなった場合は価格競争などの消耗戦になることも予想できます。また競合のエニタイム、カーブスも、それぞれ独自の戦略で対抗してくると思いますから、競争は一層激しくなるのではないでしょうか」(同)
たった1年で急拡大したchocoZAPだが、ここからはさらに未知の領域に踏み込むことになる。また既存会員の維持というのも重要な課題だ。トップを取ったフィットネスジム事業に「2年目のジンクス」はあるのか、注目が集まる。
(文=清談社、取材協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表)