新聞や通信社、ウェブメディアなどから配信される記事を掲載するポータルサイト「Yahoo!ニュース」。日々、膨大な量のニュースを掲載し、月間200億PV(ページビュー)を超えるといわれ、他のポータルサイトを圧倒する集客力を有する。そんな同サイトだが、かねてからコメント欄、通称「ヤフコメ」での誹謗中傷が問題視されていた。一言レベルのシンプルな罵詈雑言から事件・事故の当事者を責め立てる発言、社会的弱者を批判する主張など、問題のあるコメントも掲載されていた。
進化しているYahoo!ニュース、誹謗中傷対策の現在地
ITジャーナリストで成蹊大学客員教授の高橋暁子氏は、「現在は以前ほどコメントの内容が攻撃的ではない」と語る。
「かつてのヤフコメでは、たしかに攻撃性の伴った幼稚な書き込みが多く、ひどい有様でした。現在のYahoo!ニュースは、AIと70人の専門チームによる24時間体制でコメントを監視しており、コメントポリシーに抵触するような投稿はどんどん削除しています。削除投稿のうち約7割がAIによって自動的に削除されており、そこからさらに専門チームがチェックして削除しているため、あからさまな誹謗中傷は表示されないようになってきています」(高橋氏)
誹謗中傷を少しでも減らしていくため、Yahoo!ニュースはほかにも多角的な対策を行ってきたという。
「Yahoo!ニュースは、さまざまなメディアの記事を配信するというプラットフォームの特性上、炎上のリスクを常に抱えています。そのため2021年からは、一定以上のコメントがついた記事を対象に、違反コメント数などの基準に従ってAIでコメント欄を自動的に非表示にしています。
揶揄的で、読者の感情を逆なでするような記事は、コメント欄を封鎖するという措置を取ったこともありました。2022年ころの眞子さまと小室圭さんの結婚報道は、コメントがヒートアップして何千件にも上ることもあり、事態を重く見たYahoo!ニュースは、報道に関連する一部メディアの記事のコメント欄を封鎖する措置を取りました。
また22年11月からはコメント欄への投稿をするユーザーに対し、携帯電話の番号登録を必須化しました。これにより悪質コメントをするユーザー数は56%減少し、不適切コメントの数自体も22%減少するなど画期的な効果をもたらしたのです。電話番号を登録することによって、これまで問題だった複数投稿の防止と個人情報を登録することによる心理的な抑止効果が働いたのだと考えられます」(同)
誹謗中傷は減少も…論理的で説得力のあるコメントが増加
しかし、シンプルな誹謗中傷が数を減らしたかわりに、批判的な長文コメントが相対的に目立つようになったと指摘する声もある。噛み砕いていえば、論理的かつ説得力のある長めな文章が目立っているというのである。たとえば、ネット上では、以前と現在の比較例として以下のような投稿もみられる。
<【以前】
クズすぎ消えろ
【現在】
この人は事務所総出で罪のない人を恫喝した過去がありますよね。それに対して何の反省もしていないのでしょうか。加害者である自分を差し置いてここぞとばかりに被害者アピールする姿勢には呆れるばかりです。インスタのフォロワーが減ったのも自業自得、今後も信頼が回復することはないでしょう>
こうした批判の中身が具体化したコメントは、より攻撃性を備えてしまったともいえる。
「一時期よりはずいぶん落ち着いていると思います。ただし、シンプルな誹謗中傷コメントが減少したことにより、そうした長文の理論的な批判コメントが目立つようになったのは事実でしょう。そもそもネットの特性として、中立ではなく偏った意見が投稿されやすい。加えて、Yahoo!ニュースでは、ユーザーからのいいね数が多ければコメント上部に表示されやすくなる仕組みになっており、『語気は強いけど一理あるな』と思わせたコメントほどユーザーの関心を惹きやすくなっている面はあるかもしれません。
近年はSNSの発達により、誰でも情報を発信できるようになり、ユーザーの文章力も向上しました。しっかりと自分の考えを論理的に組み立て、建設的なコメントを残すと賛同を得られやすく、インプレッションも稼ぎやすい。ですから、結果的に批判的なコメントを目にする機会が多くなってしまっているのかもしれません」(同)
しかしながら、Yahoo!ニュースではコメントの偏りが出ないように工夫もされているそうだ。
「批判的なコメントだけではなく、その反対意見、要するに賛同意見などもAIのマッピングを利用して取り入れるようにしています。なるべく多様な観点の意見を反映させ、エコーチェンバー現象(SNS上でで価値観の似た者が集まった結果、自分が発信した意見と同じような意見が返ってくる現象)化させないように公平性を保とうとしていることがうかがえます。Yahoo!ニュースは、コメント欄の意見に偏りを生じさせない、それでいて言論の自由は守るという目的で編集しているので、恣意性はほとんどないというのが私の見解です」(同)
世界規模で誹謗中傷対策は進行中だが、まだまだ足りない
ネット上の誹謗中傷に対しては、企業のみならず、国も厳しく対処すべきという方針を掲げている。
「国は誹謗中傷を重く受け止めており、SNSやIT大手のプラットフォームに対し、誹謗中傷コメントの削除対応や状況の開示などを迫っています。企業もAIと人的管理で誹謗中傷に対処しており、世界的に見ても似たような対策が進んでいます。総務省では『誹謗中傷への取組の透明性・アカウンタビリティ確保状況について』という資料を発表しており、各企業がどれくらい誹謗中傷について取り組んでいるか、具体的なデータを開示しています」(同)
国も企業も問題解決に向けて積極的な姿勢を見せているが、それでもまだまだ対策を考えていくべきだと高橋氏は力説する。
「誹謗中傷と批判は判別が難しく、具体的な対策がしづらい。人格否定の入るコメントであれば、誹謗中傷に判定されるケースが多いのですが、明確にそうだと断言できないものも少なくないです。また客観的に見れば、まっとうな批判だとみなされるコメントだったとしても、当事者からすれば精神的にストレスのかかる内容であることも。
また有名人の自殺に関してフェイクニュースなど正確ではない情報が出ると、真実とはかけ離れた声が集まり、負の連鎖が続きやすい。ですから、どこまでが許容されるのか、その線引きを考えることは社会全体で考えていくべき問題でしょう。国主導でその線引きを設定してしまうと、言論統制につながる恐れがありますので、やはり業界団体などで力を合わせ、積極的に解決策を導かなくてはいけないと考えられます」(同)