かつて携帯電話の販売代理店が「頭金」と称して端末価格に代金を上乗せしているケースがあるとして、総務省と消費者庁が「消費者の誤解を招く恐れがある」と注意喚起したことがあった。今秋にあるネットユーザーが「頭金が19800円かかると言われ、じゃあオンラインで自分で手続きをすると告げたら頭金がなくなった」との体験談を書き込んだことで、現在も「頭金」の上乗せをしているショップが存在しているのではと騒がれている。
話題となっているのは、あるユーザーが10月にX(旧Twitter)に書き込んだ体験談。ソフトバンクショップでiPhoneの機種変更をしようとしたところ、担当者から「頭金が1台19800円かかります」と言われたという。「以前はかからなかった」と訴えると、担当者は「最近はどこのお店でも頭金が必要になった」と返したといい、払わずに済む方法はないかと問うと「オンラインで自分で手続きをすれば頭金はかかりません」と話したそうだ。
そこでユーザーが「分かりました、オンラインでやります」と告げると、担当者は「少々お待ちください」とその場を少し離れ、戻ってくると「上長に相談しまして、550円のオプションを1ヶ月つけてくれたら、今回は頭金をサービスさせていただきます」と提案してきたという。必要だったはずの19800円がゼロになったことで、ユーザーは代理店の「頭金」の告知と対応に疑問を持ったようだ。
総務省と消費者庁が注意喚起
一般的に「頭金」というと手付金のように最初に代金の一部を支払うことを指すが、携帯電話業界では、キャリア問わず販売代理店が代金に「頭金」と称して店側の利益となる金額が上乗せすることがあった。2018年ごろから問題が表面化し、国民生活センターなどに「携帯電話ショップで、端末代金を分割払いにして携帯電話の機種変更をした時に店頭で頭金を支払ったが、割賦総額から頭金分の金額が減額されていない」といった苦情が相次いだ。
2020年11月には、総務省と消費者庁が「消費者に誤認を与える」として注意喚起し、携帯キャリア各社や販売代理店などに是正を求めると発表した。
ショップ側が「頭金」を設定した理由については、2021年に総務省の有識者会合で「大手3キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク)では販売代理店に卸される端末の価格が、キャリア直販のオンラインショップの価格と同じ」という背景があるとされ、販売奨励金(インセンティブ)による代理店の収入が減少したことなどもあり、そのままの価格で販売すると「代理店側は粗利が0円になり得る」と指摘された。さらに、代理店へのヒアリング調査で「白ロム販売では利益が出ない」「クレジットカード払いなどの販売条件によっては代理店側が赤字になる」といった声があることも紹介された。
代理店が「頭金」を設定すること自体は自由なのだが、消費者に「これは店の利益分です」とは言いづらく、一般の意味と違う「頭金」という言葉を使ったことで誤解が生じやすくなったようだ。省庁が動くような問題になったことで、こうした慣例は消えるかと思われたのだが、先述のSNS上での告発が事実なら、いまだに「頭金」を上乗せしているショップが存在していることになる。
ソフトバンクの見解
SNSの書き込みではソフトバンクショップでの体験談だったことから、ソフトバンク広報本部の担当者に「頭金」問題の見解を聴いた。
──手数料的に「頭金」を上乗せする販売代理店が現在もあることは認識していますでしょうか。
「手数料としてではなく、端末価格に対して頭金を設定していることは認識しています」(ソフトバンク担当者)
──キャリア直販サイトの販売価格と代理店への卸価格が同額で、そのまま販売すると粗利が0円になりかねないため、代理店が「頭金」を上乗せしているとの指摘がありますが、そのような事実はありますでしょうか。
「キャリア直販サイトと卸価格はほぼ同額ということは事実です。ただしインセンティブを支払っているため、粗利が0円ということはありません」(同)
──頭金は以前から業界の問題として指摘されていたようですが、貴社としては何かしら対策をしていますでしょうか。
「頭金を徴収する場合は、プライスカードなどに頭金の金額を表記し、お客様が認識できるようにすることを徹底しております」(同)
こうした販売代理店における「頭金」問題について、ITジャーナリストの石川温氏はこのように解説する。
「世間一般で言う『頭金』は、ある商品の支払いをする際、分割払いにしつつ、最初に支払うものを指します。しかし、キャリアショップなどにおいては、製品の最初に支払うものというわけではなく、どちらかというと『手数料』的なものを『頭金』と称して、支払わせる傾向が強いようです。ただ、『頭金』といいつつ手数料的なものを支払わせる行為は、ソフトバンクに限らず、業界全体に広まっており、総務省でも問題となったことがあるなど、必ずしも褒められた売り方ではないやり方です。ショップで手続きを行う際には『頭金』が何を指しているのか、中身がわからないようであれば、店員さんに確認すること。また、それも嫌ならばオンラインで手続きすることを勧めます」
(文=佐藤勇馬、協力=石川温/ITジャーナリスト)