新築マンション供給が過去50年で最低水準へ…もはや「中古1億円」は序の口か?

●この記事のポイント
・首都圏の新築マンション供給が2026年に過去50年で最低水準へ。土地枯渇と用地争奪戦が背景にあり、価格下落を期待する声とは裏腹に、市場は新たな局面へ突入している。
・新築の供給減を受け、資金は中古市場へ流入。すでに中古平均価格は1億円超えが常態化し、「新築>中古」という序列は崩壊。立地の良し悪しが価格を決定づける時代に。
・2026年は“全面下落”ではなく、選別が極端に進む年となる。都心の優良立地は高止まりする一方、郊外では調整も。問われるのは新旧ではなく「立地の強靭さ」だ。
不動産市場の最前線で、静かだが決定的な地殻変動が起きている。
不動産経済研究所が発表した2025年11月の「首都圏新築分譲マンション市場動向」によれば、発売戸数は前年同月比14.4%減の1,910戸。10月に続く2カ月連続の減少となった。単月の数字だけを見れば「調整局面」とも読めるが、問題の本質はそこではない。
業界関係者の間で現実味を帯びて語られているのが、2026年の新築マンション供給戸数が、過去50年で最低水準に落ち込むという中長期見通しだ。これは単なる景気循環ではなく、東京という都市そのものが抱える構造問題の表出に近い。
供給の激減、価格の硬直、そして「新築から中古へ」という資金の還流。首都圏、とりわけ東京23区の住宅市場では、いま何が起きているのか。
●目次
23区からマンションが消える? 「用地争奪戦」で起きている異変
新築マンション供給が細る最大の要因は、極めてシンプルだ。マンションを建てるための土地が、もはや残っていない。
特に東京23区では、駅近・整形地・一定規模という「事業性の取れる用地」はほぼ枯渇状態にある。再開発案件を除けば、まとまった土地が市場に出ること自体が稀だ。
そこに拍車をかけているのが、用途を巡る競争の激化である。
都心部の一等地を巡っては、分譲マンションだけでなく、オフィスビル、外資系高級ホテル、データセンターといったプレーヤーが入り乱れる。収益性という一点において、分譲マンションは明らかに不利だ。
不動産ジャーナリストの秋田智樹氏は、こう明かす。
「現在の都心では、良い土地が出れば必ずオフィスやホテルと競合します。賃料収入をベースにした事業計画では、分譲マンションはどうしても見劣りする。結果として、マンション用地の取得件数はピーク時の半分以下にまで落ち込んでいます」
オフィス賃料が高止まりするなか、デベロッパー各社は“勝てない戦い”を避けるようになった。無理に供給を増やすよりも、供給を絞り、既存在庫の価格を維持する。それが合理的な経営判断となっている。
「新築は高嶺の花、中古は奪い合い」というねじれ現象
新築市場が縮小する一方で、対照的な動きを見せているのが中古マンション市場だ。
首都圏の中古マンションは、流通量・成約件数ともに増加傾向が続く。背景にあるのは、新築価格の高騰と供給不足だ。これまで「新築志向」だった層が、現実的な選択肢として中古へ流入している。
ただし、その中古市場も、もはや「手頃」とは言いがたい。
・中古マンション平均価格はすでに1億円を突破
・立地条件の良い物件では、価格交渉が成立しにくい
・新築供給不足による“吊れ高”現象が常態化
秋田氏は、この構造をこう説明する。
「いま起きているのは、新築と中古の逆転現象です。『新築だから高い』『中古だから安い』という価値基準は崩れました。重要なのは立地と希少性。供給が絞られる2026年に向けて、良い中古物件にはさらにプレミアムが乗る可能性があります」
かつて存在した「新築>中古」という序列は、すでに意味を失っている。市場は今や、“良い立地の物件を奪い合う椅子取りゲーム”へと変質した。
2026年、価格は下落に転じるのか? 見落とされがちな「限界」
最も気になるのは、「いつ価格が下がるのか」という一点だろう。
供給が過去最低水準まで減れば、市場原理だけを見れば価格は維持、あるいは上昇する。しかし、そこには無視できない制約がある。買い手の購買力(アフォーダビリティ)が限界に近づいていることだ。
住宅ローン金利の先高観、実質賃金の伸び悩み、生活コストの上昇。これらを考慮すれば、すべてのエリアで価格が上がり続けるとは考えにくい。
2026年前後に想定されるのは、明確な二極化の深化である。
都心・駅近・再開発エリア
供給減と富裕層需要により、価格は高止まり、あるいは上昇。
郊外・各停駅・築年数が進んだ物件
実需層の購買力が限界に達し、成約価格は頭打ち、緩やかな調整局面へ。
秋田氏はこう警鐘を鳴らす。
「『全体が下がる』という期待は捨てるべきです。供給が最低水準となる2026年は、選別が最も残酷に進む年になります。価値のない物件は売れ残り、価値のある物件はさらに遠い存在になる」
もはや「待てば下がる」というデフレ期の成功体験は、東京の住宅市場では通用しない。
新築というブランドが薄れつつある今、問われるのは資産としての耐久力だ。それを決める最大の要素は、「新旧」ではなく、オフィスやホテル需要と競合しても価値を保てる立地かどうかに尽きる。
2026年の供給激減は、危機であると同時に、価値を見極めるための“踏み絵”でもある。市場に残る中古の優良在庫をどう見極めるか——その判断が、資産形成の明暗を分ける時代が、すでに始まっている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)











