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フィジカルAIが建設・物流の人手不足を補う…ARAV、T2、Mujinに見る2026年の現在地

2026.11.07 05:55 2026.11.07 00:18 企業
文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト

フィジカルAIが建設・物流の人手不足を補う…ARAV、T2、Mujinに見る2026年の現在地の画像1

●この記事のポイント
建設・物流の人手不足を背景に、既存の建機に後付けで遠隔操作と自動運転を実現する東大発のARAVをはじめとした、2026年の最新動向を紹介。自動運転トラックのT2、物流ロボットのMujinとラピュタ、建設用3DプリンターのPolyuse、Hacobuなど国内外の企業を取り上げ、安全・通信・費用という普及の課題も解説する。

 建設と物流の人手不足は、もう「将来の予測」ではない。目の前で起きている問題だ。一方で、AIがテキストを生成する段階を越え、重機やトラック、倉庫のロボットといった物理的な機械を動かす「フィジカルAI」の実用化が、ここ1〜2年で目に見えて進んだ。研究室のデモを抜け出し、実際の現場で稼働している技術は何か。どこまで来ていて、何が足りないのか。国内外のスタートアップの動きから整理する。

●目次

数字が示す「余力のなさ」

 まず現状を数字で押さえておく。国土交通省が総務省「労働力調査」を基にまとめた資料によると、2024年の建設業就業者のうち55歳以上は36.7%、29歳以下は11.7%にとどまる。全産業(55歳以上32.4%、29歳以下16.9%)と比べ、高齢化がはっきり進んでいる。

 物流では、2024年4月にトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用された。NX総合研究所の試算では、何も対策を講じなければ2030年度に輸送能力の約34%が不足する可能性がある。国交省の資料は、このうち約14%分について官民の取り組みの成果などにより「概ね克服」するとしているが、残る差は小さくない。

 国交省は2024年4月に「i-Construction 2.0」を公表し、2040年度までに建設現場で少なくとも3割の省人化(生産性1.5倍)を目標に掲げた。DXはもはや「やれば得をする」施策ではなく、現場を回し続けるための前提条件になりつつある。

「いきなり無人化」を目指さない

 実装が進み始めた理由の一つは、技術の段階の踏み方にある。最初から完全な無人化を狙うのではなく、まず人が安全な場所から遠隔で操作し、次に定型作業を機械に任せ、異常時だけ人が介入する「監視付き自律」へ進む。この順序なら、安全性の検証と現場の受け入れを並行して進められる。

 公共工事でも動きは出ている。国交省の会議での報告によれば、災害復旧以外の通常工事でも遠隔施工は2025年度に39件実施され、砂防工事以外での活用も始まっている。

「建設現場は毎日条件が変わります。完全自律だけで勝負すると、想定外の状況で止まったときに打つ手がない。遠隔で人が引き取れる設計にしておくことは、技術的な妥協ではなく、現場に入るための必須条件だと考えています」(不動産ジャーナリスト・秋田智樹氏)

巻頭事例:ARAV 既存の建機を「後付け」で遠隔・自動化

 この「段階的な実装」を体現しているのが、東京大学発のスタートアップARAV(アラヴ、2020年4月設立)だ。

 代表取締役の白久レイエス樹氏の経歴は少し変わっている。東京大学大学院を修了後、スケルトニクスを創業。その後SUBARUのアイサイト開発部署に在籍し、2018年に米シリコンバレーでYanbaru Roboticsを創業した。ここでは既存の自動車に後付けする自動運転キットを開発し、カリフォルニア州の高速道路で自動運転の試験に成功している。既存の車両に後付けで自動運転機能を加えるという発想を、建設機械に持ち込んだのがARAVだ。

 同社の特徴は、メーカーや機種を問わず、既存の建機に装置を後付けして遠隔操作と自動運転を実現する点にある。同社の紹介資料によれば、建設、製鉄、セメント、港湾などの累計76社に導入されている。4G/5G回線を使ったクラウド経由の接続で、最大約1000km離れた場所からの操作に対応する。稼働時間帯の異なる複数台を1人のオペレーターが扱う運用も想定している。

 ここ1年ほどは協業の幅が広がった。2025年10月にはシャープと衛星通信を活用した遠隔操縦ソリューションの開発で、2026年6月にはカヤバと油圧制御の電子制御化を組み合わせた自動化で協業を発表した。同月には、映像伝送技術を持つソリトンシステムズとの連携製品の販売も始まっている。

 建機は長期間使われる資産であり、新車の自動化対応機への入れ替えを待っていては普及に時間がかかる。手持ちの機械を生かせる後付け方式は、中堅・中小の事業者にとって検討しやすい選択肢と言える。

建設:施工と情報の両面で動くプレーヤー

 同じく東大発のDeepXは、建設機械の自動運転を手がけ、自動運転用の後付けハードウェアユニットや、鉄塔基礎工事での掘削・排土の遠隔化・自動化に向けた共同研究を進めている。

 作業そのものを置き換える例では、建ロボテックの鉄筋結束ロボット「トモロボ」がある。2026年3月には運搬ロボット「運搬トモロボ T-BOX」が国交省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録された。建設用3DプリンターのPolyuseは、公共工事を中心に累計施工300件を超え、量産機「Polyuse One」は40台に達した(2026年6月時点)。同社は2026年度内に100台体制を目指すとしている。

 情報面では、燈(あかり)の建設業特化型の生成AIエージェント「光/Hikari」を2026年9月に京都市建設局が導入した。Liberawareは超狭小空間点検ドローン「IBIS」シリーズで、下水道管路など人が入りにくい場所の点検を担う。

 海外では、建機を監視付き自律化する米Teleoが日立建機と組み、2026年3月の展示会CONEXPOでデモを行った。同月には米HavocAIによる買収が発表されている。買い手は陸・海・空の自律システムを手がける企業で、建機向けの自律化技術がほかの領域と地続きであることをうかがわせる。

物流:幹線輸送と倉庫で進む実装

 トラック輸送では、三井物産が設立し、Preferred Networksが技術面で協力するT2(2022年設立)が、関東―関西間で大手運送会社など約30社向けに、ドライバーが乗車するレベル2での商用運行を行っている。2026年10月には、無人運転と有人運転を切り替える拠点で自動運転トラックの自動発着に成功したと発表した。この技術は2027年1月から商用運行に導入し、2027年度以降のレベル4による幹線輸送を目指す。

 先行する米国では、Auroraが2026年9月に商用の無人走行で累計50万マイルを超えたと報告している。日米で法制度や道路環境は異なるが、無人運行の安全実績がどう積み上がるかは、日本の制度設計を考える上でも参考になる。

 倉庫の中も変わりつつある。Mujinは2025年12月にシリーズDの初回クローズで総額364億円(エクイティとデットの合計)を調達し、2026年の日本スタートアップ大賞で内閣総理大臣賞を受けた。ラピュタロボティクスの自動倉庫「ラピュタASRS」は30拠点以上で採用され、うち10拠点以上で稼働している(2026年9月時点)。

 ロボットだけが解決策ではない。Hacobuのクラウド物流管理サービス「MOVO」は導入企業1100社超、利用事業所数4万7000カ所超(2026年8月末時点)に広がった。トラックの荷待ち時間を減らす予約受付のような仕組みは、地味だが、効果を比較的早く確かめやすい。

「自動運転トラックは幹線の輸送力を補う手段として期待されますが、普及には時間がかかります。当面は、荷待ちや荷役の削減、共同輸送といった運用改善と、自動化技術を組み合わせていく二段構えが現実的です」(物流コンサルタント・斎藤直樹氏)

普及を左右する三つの論点

 今後の論点は大きく三つある。

 一つ目は安全と責任の整理だ。遠隔・自動施工については国交省が2026年に発注や検査に関する要領を整備する方針で、厚生労働省も労働安全衛生法令の改正を視野に入れているとされる。事故が起きた際に、機械メーカー、システム提供者、遠隔の監視者がそれぞれどこまで責任を負うのか。保険を含めたルールづくりが普及の速度を左右する。

 二つ目は通信だ。山間部やトンネル、金属に囲まれた倉庫など、電波が届きにくい場所は多い。衛星通信やローカル5Gの活用に加え、通信が途切れたときに機械が確実に安全停止する設計が欠かせない。

 三つ目は費用対効果である。建設・物流事業者の多くは中小企業で、大きな初期投資は難しい。後付け方式や月額型の提供、公的支援を組み合わせた導入のしやすさが問われる。

「導入を検討する現場から最初に出てくるのは『いくらで、何人分の作業が減るのか』という質問です。技術の新しさではなく、その答えを具体的に示せる企業が選ばれていくでしょう」(秋田氏)

人の仕事は「なくなる」のではなく「変わる」

 ここで紹介した技術の多くが狙っているのは、人を現場から外すことではない。炎天下や粉じんの中での操作、長時間の運転、荷待ちといった負担の大きい部分を機械や仕組みが引き受け、人は監督や判断に回る。遠隔操作が広がれば、現場から離れて暮らす人や、体力面の制約がある人が施工に関わる道も開ける。

 もちろん、制度や費用の課題は残る。それでも、完全自動化を待たずに「今ある機械と業務を少しずつ置き換える」アプローチは、すでに現場への導入が進み始めている。人手不足という前提の下で現場をどう続けていくのか。その答えの一部は、ここで見てきた地道な実装の積み重ねの中にある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=秋田智樹/不動産ジャーナリスト)

【主な参照データ・出典】
国土交通省「i-Construction 2.0」(2024年4月)
国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」等(総務省「労働力調査」を基に作成)
国土交通省「2030年度に想定される輸送力不足への対応方針」/全日本トラック協会「物流の2024年問題」(NX総合研究所試算)
日経クロステック「国土交通省が遠隔施工の基準整備、安衛法令の改正に…」(2026年1月14日)
建設資料館「国交省/自動施工」(2026年3月5日)
ARAV公式サイト、東京都「TOKYO STARTUP LINK」第1回スタートアップピッチイベント登壇者紹介、白久レイエス樹氏プロフィール(shiroku.net)
シャープ ニュースリリース(2025年10月21日)、カヤバ ニュースリリース(2026年6月10日)、ソリトンシステムズ ニュースリリース(2026年6月11日)
DeepX、建ロボテック(2026年3月26日)、Polyuse(2026年6月)、燈(2026年9月8日)、Liberaware 各社発表
日立建機ニュースリリース(2026年3月2日)、HavocAI発表(2026年3月)
T2 ニュースリリース(2026年10月21日)
Aurora Innovation「Third Quarter 2026 Shareholder Letter」(2026年10月28日)
Mujin プレスリリース(2025年12月2日、2026年9月25日)
ラピュタロボティクス プレスリリース(2026年9月30日)
Hacobu プレスリリース(2026年9月30日)

秋田智樹

秋田智樹/不動産ジャーナリスト

1965年生まれ。国内大手ゼネコンを経てマンション、戸建てから大規模施設の企画・立案から関与し、詳細なデータに基づき分析も行う。

公開:2026.11.07 05:55