「992型」となったポルシェ911は、先代の991型と印象的に大きな差がない。
もともとポルシェ911は、この世に生を受けたときから頑固一徹に、リアエンジンを源とするコンセプトを踏襲してきた。それゆえ超個性的なクーペスタイルを守り続けてきたわけだから、今さら変わりようがないし、変わる必要もない。これからも未来永劫、このスタイルを続けてほしいと誰もが思う伝統の逸品なのだから、992型になったからといって衣装替えされても、世間のほうが面喰らってしまうことだろう。だから、このままでいいのだ。
とはいうものの、やはり新型になれば、販売上もファンの気持ちをつなぎとめるためにも、新鮮味も必要なわけで、微細な部分でも意匠替えが確認できる。
ドアノブが、最近のプレミアムゾーンで増殖中のリトラクタブルタイプ(格納式)に変更になった。いわば、走行中はドアパネルと“ツライチ”のフラットに格納され、キーを所持したドライバーが近寄り手をかざせば迫り上がる。最近では、レクサスLCやレンジローバー・エヴォーグなどにも、多少の造形の違いは認められるものの、同様のスタイルである。探せばきりがないほど、リトラクタブルタイプが増えているのだ。
それが空力的なメリットを求めたからなのか、たんなる造形美なのか、あるいはその両方なのか、担当者の言質はとれなかったが、ともあれ流行のひとつのような気がする。大枚を払ったオーナーをエスコートするための演出と思えば、これもありかと思う。
エンジンフードのルーバーがタテ型になったのは先代の991型と同様だが、中央部分にはハイマウントストップランプが組み込まれることになった。それが思いのほか視覚的に強く印象を残す。
フロントの低いノーズから、なだらかな稜線にまとわりつくように流れてきた走行風を、そのまま熱源であるエンジンに導くには、このタテ型のルーバーは感覚的に納得がいく。リアのエンジンにフードを開ければ、その中には2つのファンが設置されている。冷却性はいつの時代もポルシェ911の課題のひとつのようで、新型はその細工で熱問題を解決してみせた。
外観の印象がそれほど変わらないように、走り味にも劇的な変化を感じることはできなかった。
搭載する水平対抗6気筒3リッターツインターボは、超絶のレスポンスであり、低回転からあり余るトルクを発揮する。反応の鋭さからは、このユニットがレーシングエンジンであることの息吹を感じさせるのも同様である。
走り味が安定していることにも違いはない。アクセルオンでリアがククッと沈みこみ、同時にリアタイヤにたっぷりと荷重が加わる感覚からは、圧倒的なトラクションが得られるであろう頼もしさと直結する。試乗車は4輪駆動の「カレラ4S」。だが、後輪だけの駆動であっても不足はないかもしれないと想像させるほどの接地感を確認できた。
速度を上げれば上げるほど路面に吸い付く感覚も伝統的である。やはりポルシェ911は超高速域に生息するのが相応しいモデルなのだと実感する。
992型は劇的な変化を感じないが、それがすなわち伝統なのだと思う。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)