メルセデス「GLB」、驚異的に“狭い”3列シートの理由…あえて前後を長くせず、“個性”創出
メルセデス・ベンツ(独ダイムラー)のSUV(スポーツ用多目的車)攻勢が止まらない。
量販が期待されるGLAとGLBがたて続けに日本デビューしたのだから、日本席巻を本格的に企んでいることは確かだろう。両モデルとも、先代のコンセプトをそのまま踏襲することはせず、大胆にイメージチェンジを放っている。出せば売れるSUVカテゴリーにあって、決して保守的にならずに攻めの姿勢を取り続けているのだ。
今回は、そのなかのGLBを紹介しよう。
メルセデスのモデル名は比較的わかりやすい。アルファベットの若いほうから順に、車格が増していく。Aクラス、Bクラス、Cクラス……Sクラスといった具合に、セダン系ラインナップは続く。SUVも同様に、頭に「GL」を加えるだけで、アルファベットが進む順に車格が増す。つまり、今回紹介するGLBは、SUVのなかではGLAに次ぐコンパクトサイズなのだ。
だが、ボディを目の前にすると、“コンパクト”という言葉は相応しく思えない。フロントマスクの意匠からリアエンドに至る造形は押し出しが強く、堂々とした雰囲気が漂うのだ。クロスカントリー色も強い。市街地での使い勝手を優先した都会型SUVというよりも、荒地を突き進むかのような力強さを感じる。SUVというよりも、軍用車から派生したかのようなGシリーズとの近似性も感じる。
最大の驚きは、3列シートを採用していることだ。7人乗りなのである。GLBが3列シートになるとは、想像していなかった。実際に現車を目の当たりにしても、にわかに信じることはできなかった。確かに威風堂々とした体躯ではあるものの、3列を収納するほどの長さを感じなかったのだ。
疑い深い僕は、リアウインドー越しに車内を覗いてみた。だが濃いブラックでスモークされているためシートの存在を確認できない。しびれを切らしてドアを開け放ったところで、初めて納得したほどである。
確かにシートは3列だったが、3列目は驚くほど狭い。荷室は限られている。3列目のシートは足元のスペースがないに等しく、子供すら長距離ドライブは辛かろうと思う。エマージェンシーの域を出ない。2列目のシートをフロント方向にスライドさせて、ようやく3列目に人が座れるという狭さである。
だが、だからといってGLBの3列化を否定する気にはなれない。全長は4645mmであり、全幅は1.9メートル以下である。全高はさすがに1.7メートルを超すものの、日本のコインパーキングにも収まるサイズである。実際に数日間ドライブした印象からすると、サイズを持て余すことはなかった。狭い日本の市街地でもストレスなく使いこなすことができたのだ。
それでいて3列シートである。緊急の送迎などでは重宝するに違いない。普段は3列目をフラットに折り畳み、広大な荷室として使えばいいのである。“ないよりあったほうがいい3列目”といった印象だ。
ちなみに、日本のプレミアム3列シートの代表はレクサス「RX450hL」だろう。それは全長が5メートルもある。幅や高さには大きな違いがないが、3列目の空間を成立させるために、前後を長くする必要があった。だがGLBは、ストレッチすることなく3列とした。そこにGLBの個性がある。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)