ある日、投資情報を販売する会社にA弁護士から内容証明郵便が届いた。「貴社が販売している投資情報商材は実現可能性がないもので、購入者は内容通りに取引したが利益が上がらなかった。よって、商材の代金24万8000円の返金を求める」という内容であった。
この商材の内容に本当に虚偽があるなら、確かに弁護士の要求は正当なものかもしれない。しかし、この申し入れの時点でA弁護士の対応に複数の重大な疑義があった。
(1)事実確認をせずに、いきなり「口座凍結要請」を行った疑い
A弁護士はこの申し入れと時を同じくして、情報商材販売会社の「口座凍結要請」を行っていた。口座凍結とは、裁判所の審査を経ずに警察や弁護士が銀行に依頼して口座を止めるという極めて強力な手法であり、振り込め詐欺やヤミ金融被害等、「明らかな犯罪行為」に使われている口座に対する措置である。制度の運用上、弁護士側で証拠を十分に精査することが求められるのだが、本事件においては、被害者とされる人物が実際に支払った金額と、弁護士から請求された金額に齟齬があることが判明している。
すなわち、これはA弁護士が依頼者に対して十分に事実確認を行わず、しかも客観的な資料の確認を十分に行うことなく、依頼者の言い分のみに依拠して口座凍結要請を行った可能性があることを意味する。
(2)未契約の依頼者分も、一まとめに和解交渉を行おうとした疑い
情報販売会社の経営者は、自社の顧問であるB弁護士に交渉の代理を依頼した。するとA弁護士は、B弁護士に対して「被害者8名分一括での和解交渉」を提示。しかし、販売会社に送られた内容証明の日付と、A弁護士が和解に言及した日付を見比べると、内容証明のうち一部は「和解言及日より後」の日付になっていた。すなわち、依頼者から正式に受任していない事件について交渉を代理しようとしていた可能性があるのだ。
(3)依頼者との面談を行っていない疑い
上記(1)の事実確認有無とも関連するが、現時点で判明しているだけでも、今回の被害者とされるA弁護士への依頼者は四国、静岡、山口と点在しており、弁護士自身が依頼者と面談を行ったか疑わしい。被害者の一部は弁護士を通さず、直接販売会社へ連絡を繰り返していたことも、この疑いの根拠の一つである。