「飛行機のピッチ(上下の首振り)制御は重要で、間違えると墜落に直結する」というのは航空工学の初歩的な知識です。通常、飛行中の機首の上げ下げ(ピッチコントロール)には、手動操縦でも自動操縦でもエレベーター(昇降舵)を使います。失速危険時の緊急回避的な自動操縦機能とはいえ、ピッチモーメントを変化させる機能ですので、昇降舵を使うほうが自然だと思えます。
水平尾翼の役割は本来、機体の重心移動に伴うピッチコントロールの中心位置のずれの補正に用いられています。昇降舵の駆動には繊細な動きが可能である油圧作動筒が使われていますが、大きな構造物である水平尾翼の作動には強い反力に耐えるジャッキスクリューとよばれる機械装置が使われており、動くと「ゴツン、ゴツン」と大きな翼をしっかり動かすことができます。
737MAXはエンジン径に制約があったために、エンジンを従来より前方に出して地上とのクリアランスをつくり、同時にエンジンパワーも増したことから、機首上げのモーメントが増して特別な制御が必要になったなど、いくつかのMCAS設置に関する理由が報道されていますが、これらはいずれも部分的な見方ではないかと思われます。
なぜなら737MAXは軍用の戦闘機ではなく、民間の旅客機だからです。戦闘機ならば速度と運動性能の双方の性能で最高の水準を得るために、機体の形状が生み出す安定性能を犠牲にしてでも自動操縦でそれをカバーさせるという設計の考え方が成り立ちます。一方、民間機の場合には、まず機体の形状が生み出す安定性能を確立したうえで諸機能を付加していくという設計思想でつくられます。
以上の考察から、737MAX設計の背景にある問題点を2つ挙げると、ひとつはパイロットの操縦免許の対象機種としての認定、いわゆる業界用語でいう操縦の機種レーティングを、737として半世紀以上変えずにやってきた点だと考えられます。
航空会社としては、レーティングが変わっていなければ737のパイロットに軽微な訓練を行うだけで737MAXに乗務させることができます。新型機への移行でなければ、機種間の移行訓練を軽減できますので、航空会社としては新型機への切り替えをスムーズに進めることが可能になります。そしてボーイング社にとっては、それにより販売を円滑に進められることが利点となります。