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航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

ボーイング最新航空機、なぜ鳥の衝突や一部品の故障で墜落事故が多発しているのか?

文=稲垣秀夫/航空経営研究所主席研究員

 双方にハッピーな結果をもたらすように見えますが、そのためにデザインを大きく変えられないという制約が生じ、新型機をつくるにあたって大きな設計変更ができないわけです。737は1968年に飛び始めて、すでに50年以上経過していますが、ずっと継ぎ足し継ぎ足しで設計変更を繰り返してきました。老舗の旅館が増築を繰り返して施設を複雑にしたようなイメージです。どこかであきらめて、新技術を駆使した機種として、全体がすっきりまとまった設計にしたほうがいいのでしょうが、なかなか踏ん切りがつかないのではないでしょうか。

 2つ目が、このMCASという自動操縦システム自体のデザインの妥当性です。現在メーカーが準備を進めている再発防止策は、このシステムのプログラム修正です。事故の再発を防ぐための安全確保についてはこれで十分なのですが、それでも「故障確率から見たセンサー部品の品質はどうなのか」は気になりますし、「たった一つのセンサーの故障とその取扱いの間違いだけで事故が起こったのであれば、MCASの全体設計は妥当だったのか」、とりわけ「1系統が故障した場合のバックアップ機能の多重性が十分だったのか」という点には疑問が残ります。

 加えて、このシステムを生み出した設計評価のプロセスに問題はなかったのでしょうか。民間機の開発ではMSG3(maintenance Steering group 3)というデザインプロセスに従って、飛行の安全に配慮した設計が進められます。機体構造や機体システムにはこのシステムで十分通用しているのですが、自動操縦系のシステムに対してこのMSG3が有効に機能したのか、今回の事故は疑問を残しました。

新型機開発が促進されるのか

 ここ数年、757後継機とされる「797」開発の話題が航空業界で盛り上がっています。ボーイング社は今春には開発について明確にすることとしていましたが、どうやら先送りされたようです。ボーイング社はここ数年、NASA(米航空宇宙局)と共同で地球温暖化を踏まえた環境対応型の次世代旅客機の研究を進めてきていますが、環境対応の主軸となる新エネルギー分野の研究を除いては、低燃費型の次世代旅客機の骨子について、一定のメドを得ている模様です。

 競争相手であるエアバス社やCOMACに対して革新的な技術で優位性を示せるのであれば、この成果を用いたシングルアイル(単通路機)の新型機開発を始めるというのはありそうです。そうなると、今回の事故も踏まえて長胴型の757の後継機だけではなく、737の新型機も検討されるのではないでしょうか。

 ボーイング社の民間機部門にとって、777Xや787はまさにショーウィンドーを飾る商品ですが、経営の大黒柱はおそらく年間700機を超える機数を毎年デリバリーしている737でしょう。737MAXを更新する新型機の開発となると、ボーイング社の社運がかかることになり慎重にならざるを得ないでしょう。2年前に新規出荷を始めたばかりで、737MAXを運航している航空会社の不興を買わないためには、新型機の開発の発表までに一定期間を開ける必要があります。

 また、737のデザインには古い技術が数多く使われていますので、新型機への移行となると多くの技術変更が起こります。したがって、現在生産しているサプライチェーンとは別の新しいサプライチェーンを準備する必要があります。巨大なビジネスにおいて生産事業者の変更が起こるわけです。ボーイング社としては、その双方とうまく付き合いながら新型機への移行を乗り切る必要があります。

 同社は退路を断つ選択をするタイミングを迎えたのではないでしょうか。リージョナルジェットを製造する日本メーカーも、ボーイングの新技術が生む新たな民間旅客機マーケットの競争の変化から目が離せないでしょう。

航空機メーカーが報道のターゲットに

 なお、今回の事故からは別の教訓も垣間見えてきます。事故が起こった後、相当早い時期に事故の当事者である航空会社をスルーして、メーカーであるボーイング社に報道の焦点が当てられました。結果的に事故原因が航空機メーカーの設計にあったことから、結果オーライだったのですが、事故原因がメーカーにあることが本当に早期にわかっていたのでしょうか。

 航空法上、運航の安全管理の一義的な責任は航空会社にあります。これまでであれば、航空会社が世間の矢面に立ってきたわけです。ところが、LCCを中心とする新興の航空会社の比重が徐々に高まるなか、新興の航空会社は技術基盤が薄く事故の際に浴びる集中砲火に耐えきれないという暗黙の認識が、世間やマスコミに生まれているのかもしれません。実際、ライオン航空の責任を追及する報道はほとんどなく、安全に関する報道の対象が航空会社からメーカーに移ったということではないでしょうが、法律上の責任は別にしても、世間の目が航空機メーカーに向く傾向が今後も続くのかもしれません。
(文=稲垣秀夫/航空経営研究所主席研究員)

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