自民党議員が安全保障関連法案に批判的なメディアに対して、「マスコミを懲らしめるには広告収入をなくせばいい」などという発言を行ったことが明るみになり、世間を騒がせた。日本国憲法第21条第1項では、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」と定められており、メディアは批判的な報道をしても一向に構わないことになっている。したがって、発言が出た同党若手議員による勉強会「文化芸術懇話会」代表の木原稔議員が同党青年局長を更迭されたのは、当然の処置である。
しかし、明らかに間違っていることを報道した場合、そのメディアは真摯に間違いを認めて修正報道を行い、陳謝すべきである。それを怠ると、「吉田証言」「吉田調書」をめぐる誤報問題で批判を浴びた朝日新聞のように、大きく信頼を失墜させることになる。
最近筆者が気になっているのは、「半導体の微細化」に関する日経グループの一連の報道である。彼らは、頭から「微細化は終焉する」と決めてかかって報道を行っている気配がある。そのため事実は歪曲され、それを読んだ半導体業界関係者をミスリードする危険性がある。
本稿では、その間違いを指摘し、半導体の微細化は今後少なくとも10年は続くことを論じたい。
「限界」は近づいていない
月刊誌「日経エレクトロニクス」(日経BP社/4月号)は『さらばムーアの法則』というタイトルの記事で、ムーアの法則が終焉するという主旨の記事を掲載した。トランジスタ(電気の流れを制御する半導体部品)の集積度が2年ごとに2倍になる「ムーアの法則」も、それに伴って2年ごとに0.7倍に微細化する「スケーリング則」も、指数関数の法則のため、これらのグラフは対数軸で描かなくてはならない。ところが同誌は、微細化のトレンドをリニア軸で描いてしまったために、半導体の微細化のペースは技術世代(ノード)が32nm(ナノメートル)を迎えた2009年頃から鈍化している、という間違った結論を導いてしまった。ちなみに、対数軸で筆者が描き直した正しい微細化トレンドは以下の図である。これについては、筆者が同誌に正しいグラフを送り、訂正記事を書くべきだと進言した。
ところが、5月19、20日付日本経済新聞は、『半導体 ムーアの先』という連載記事を掲載した。19日は『微細化競争に限界』という見出しで、リード文には「(略)だが半導体の集積度が飛躍的に向上することを予想した『ムーアの法則』から50年が経過。回路の微細化が限界に近づく半導体産業の行く先を探った」と書かれている。記事を読むと、あちこち不自然な箇所がある。
まず、「ムーアの法則は限界に近づきつつある」という記事に掲載されたのは、対数軸で描かれた微細化のトレンドグラフだった(筆者の進言が功を奏したのであろうか)。この図を見れば1970年以降、2015年の今日まで極めて順調に微細化が進んできているのは一目瞭然だ。ところが、「限界」は読み取れないのに、文章では唐突に「その法則に限界が近づいている」という。