シャープ解体論も再浮上か
鴻海は16年8月、経営不振に陥ったシャープを買収して再建を進めてきた。郭氏が経営の第一線から退くことで「シャープの今後に影響を与えることになる」(エレクトロニクス担当のアナリスト)との見方が有力だ。
シャープは昨年夏頃までは順調に再建を進めてきたが、昨秋以降、中国でのテレビ販売の失速や、アップルのiPhoneの不振による電子部品の販売減少で業績は揺らいでいる。19年3月期は業績予想を2度下方修正し、営業利益は18年3月期比7%減の841億円だった。20年3月期に売上高を3兆2500億円に拡大するとした中期経営計画を断念した。5月9日の決算発表で、20年3月期の売り上げ目標を2兆6500億円とした。いわば6000億円の未達となる。連結営業利益は1000億円だ。中期経営計画では1500億円を目指していたが、500億円ショートする。
台湾ではシャープ買収に否定的な意見が多かった。「液晶技術などを吸収し、リストラ効果による黒字転換を果たした今が売り時」との指摘もある。
シャープの経営が転機を迎える最中、絶対的なトップが政治に転身するリスクは決して小さくない。劉氏は6月11日、「鴻海はシャープを黒字転換させるため、多大な支援をしてきた」と語り、将来、「シャープが自ら責任を負わなければならない」と述べた。
シャープの解体論が再浮上してくることもあり得る。その一方で、高精細の8Kや有機ELなどで独自の技術を持つシャープは、鴻海グループの成長のエンジン役を果たすとして、シャープ必要論を唱える向きもある。そうであれば、シャープは手放せないことになる。戴氏は鴻海の董事となったが、就任以前の5月27日、日本で記者団に対し、「郭氏が総選挙に出馬するので、仕方なく私が(鴻海の新役員名簿に復帰する形で)入った。ただ、鴻海の事業執行にはかかわらない」と述べ、「今後もシャープの経営に専念する」姿勢を強調した。
いずれにせよシャープは、郭氏の政界進出に翻弄されることになりそうだ。ただ、郭氏が国民党の予備選で敗れれば、経営に復帰する公算が大きい。たとえ総統選に出馬することになっても、本選で敗北すれば「間違いなく経営に戻る」(鴻海関係者)とみられている。
シャープにとっては、郭氏が政治家にならないほうがいいのかもしれない。
(文=編集部)
【追記】
●郭氏、国民党予備選で敗北
台中融和路線の最大野党・国民党は7月15日、党公認候補を決める予備選で韓国瑜・高雄市長が勝利したと発表した。郭台銘・鴻海精密工業前董事長は敗北した。
予備選は一般市民を対象に電話世論調査で8~14日に行われ、5つの世論調査の平均支持率で韓氏が44.8%、郭氏は27.8%と大差がついた。7月28日の党大会で韓氏が公認候補として正式に決定する見通しだ。
台湾のメディアは、郭氏が離党し、無所属で立候補する可能性を報じている。郭氏は党の予備選の運営を不透明などと批判し、7月15日の候補者5人全員の会見に出なかった。
郭氏が離党し国民党が分裂すれば、与党・民主進歩(民進)党から再選を目指して出馬する蔡英文総統が有利となる。しかし、予備選で大差で敗れただけに総統選への立候補のハードルは一段と高くなった。