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大崎孝徳「なにが正しいのやら?」

1個30万円、音にこだわらず広告もなし…なぜあの「非常識」イヤホンはヒット?

文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授

 以上のイヤホンの事例には、共通することがあります。すべて、にこだわっているということです。「イヤホンなのだから、音にこだわるのは当たり前だ」という意見もあるでしょう。しかし、すでに各社がこれだけこだわっている部分に新たに切り込んでいき、他社との差別化を図るのは至難の業です。

女性向けイヤホンがヒットした理由

 ずいぶん昔のことですが、筆者が大変感心したイヤホンがあります。それは、エレコムが発売した女性向けイヤホンです。

 よく考えると、女性だけが対象となる一部のものを除けば、世の中の製品の多くは男性用につくられているのではないでしょうか。パソコンも、発売当時は黒やグレーといった色が多かったような気がしますし、イヤホンも同様のイメージがあります。

 こうしたなか、エレコムはいち早く女性にターゲットを絞り、デザインや色、柄などを工夫したイヤホンを開発しています。

 つまり、「イヤホンといえば『音』」という常識から離れ、独自に市場のセグメントを分析した上で、ターゲットを抽出し、独自のポジショニングを行ったわけです。

 こうしたイヤホンは、単に商品における差別化の実現にとどまりません。通常のイヤホンは、家電量販店などで扱われていますが、エレコムの女性向けイヤホンは雑貨屋などでも販売されているのです。

 以前、筆者はイヤホンを購入しようと家電量販店を訪れた際、通路両面の大きな棚を覆い尽くす無数のイヤホンに圧倒され、選ぶことが面倒になり、結局何も買わずに帰った経験がありました。しかし、雑貨屋でイヤホンが並んでいるとなると、競合する商品はきわめて少ないでしょう。

 プロモーションに関しては、イヤホンはそれほど市場規模が大きくないので、マスメディアでの広告展開は現実的ではありません。しかし、女性向けイヤホンは、そのユニークでわかりやすい特徴から、当時、多くのメディアでニュースとして取り上げられました。広告展開を行わなかったものの、結果的に大きな宣伝効果をもたらしたことになります。

 価格に関しても、音にこだわるような技術開発と比較して投資額は小さかったため、リーズナブルな価格で気軽に買える商品としてヒットしたと聞いています。

 製品開発というと、機能を中心に差別化することを考えがちです。しかし、それに加えて流通での差別化なども考慮すると、他社との差をより明確にすることができるのではないでしょうか。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

大﨑孝徳/香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授

香川大学大学院地域マネジメント研究科(ビジネススクール)教授。1968年、大阪市生まれ。民間企業等勤務後、長崎総合科学大学・助教授、名城大学・教授、神奈川大学・教授、ワシントン大学・客員研究員、デラサール大学・特任教授などを経て現職。九州大学大学院経済学府博士後期課程修了、博士(経済学)。著書に、『プレミアムの法則』『「高く売る」戦略』(以上、同文舘出版)、『ITマーケティング戦略』『日本の携帯電話端末と国際市場』(以上、創成社)、『「高く売る」ためのマーケティングの教科書』『すごい差別化戦略』(以上、日本実業出版社)などがある。

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