「アルコール割材」としての訴求も強化
今年7月1日から7日まで、「七夕丸」と名づけた屋形船4艘が東京・隅田川を周航した。浅草・吾妻橋から出航し、お台場までの橋をめぐる。浅草で唯一の屋形船を運営する「船宿あみ清」(あみせい)の船を借り切り、船内外を“カルピス仕様”に装飾した。
船内では「カルピス」を使用したサワーやソフトドリンクの提供に加え、乗船客に参加型のイベントも実施した。一連のイベントの狙いは、浅草を訪れる観光客に「カルピス100周年」の認知拡大と、飲食店向けにサワーなど「アルコール割材」としての訴求を強化するための活動だった。「お酒は飲みたいが健康も心配」というお客には受け入れられそうだ。
“ノスタルジー消費”をどう定番化するか
清涼飲料の話に戻ろう。「濃いめの『カルピス』」や「カラダカルピス」がヒットしたのは、マーケティングでいう“ノスタルジー消費”もあるだろう。子ども時代に親しんでいた食品を、大人になってしばらく離れていたが、ふとしたきっかけで喫食を再開することだ。たとえば近年、団塊世代が支持するようになった「家庭用アイスクリーム」がそれに当たる。
ただし、ノスタルジーだけでは長続きしない。競合の多い食品のなかでユーザーを増やし、「自分はこれが好き(合っている)」という愛好家を増やすのが理想だ。
実は、7月の「カルピス」の販売数量は「ストレート」が対前年比66%、「コンク」が同63%と記録的な少なさだった。同社の誇る主要ブランドのうち、「三ツ矢」(炭酸飲料)や「十六茶」(茶系飲料)も同水準。主な理由は「梅雨明け」が遅れ、冷夏の天候不順が続いたこと。たとえば、大消費地の東京都では、都心で7月16日まで「20日連続・日照時間3時間未満」を記録したほどだった。多くの清涼飲料でも厳しい販売数だったと聞く。
梅雨明け後は一転して「猛暑」が続き、「カルピス」の販売数量も回復したが、100年ブランドとしての本当の勝負はこれからだろう。
“炭酸ブーム”とは距離を置く
たとえば、現在の清涼飲料市場では「強炭酸」などの“炭酸ブーム”だ。炭酸水の市場は10年で約13倍に拡大し、アサヒ飲料の炭酸水「ウィルキンソン」は7月の梅雨寒でも他ブランドが大苦戦するなか、対前年比104%を記録したほどだ。
「カルピスソーダ」(1974年発売)というロングセラー商品も持つ「カルピス」だが、現在の「強炭酸」とは距離を置く。
広報担当者は「強炭酸を飲用する人が求めるニーズは『刺激』『爽快』『気分転換』です。『カルピス』のブランドイメージや本質価値とは異なります」と話す。
ブランドとしての今後の課題には「糖分の見える化」もある。無糖の「炭酸水」がここまで市場拡大が続くのを、どう考えるか。現在の消費者の健康志向には、当然ながら「糖分を抑えたい」との思いも入っている。
そうした課題は残るとはいえ、「カルピス」はこれからも「農耕型」のブランドであるべきだ。ブランドの出自も歩みも農耕型。地道に種をまき、育成するのが向く。消費者意識と向き合い、ブランドの価値をより高めた先にこそ“国民的初恋飲料”のポジションがあるだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)