また、海外売り上げが増えるにつれ、為替レートが収益に与える影響も大きくなりやすい。先行き懸念の高まりを受けて外国為替市場では多くの市場参加者がリスクを削減してきた(リスクオフ)。それが、円の買い戻しを通して円高圧力を高めている。これもデサントの収益にはマイナスの要因だ。
日韓関係悪化の影響
デサントの海外事業の中でも、韓国事業の存在感は突出している。売上高を国・地域に分けてみると、56%が韓国から得られている。足許、韓国経済は厳しい状況を迎えつつある。韓国経済は、財閥企業の半導体輸出などを増やすことによって景気を支えてきた。中国向けの輸出(香港含む)は、韓国全体の輸出の3割を占める。最大の輸出先である中国が成長の限界を迎え、韓国の経済環境は急速に悪化している。韓国政府がこの状況をどう乗り切るか、妙案は見いだしづらい。
それに加え、“戦後最悪”といわれるほどに日韓の関係が悪化している。これもデサントのビジネスに無視できない影響を与え始めている。わが国が韓国向けの輸出管理制度を見直したことを受けて、韓国では日本企業の商品に対する不買運動が起きた。事実上、“韓国一本足打法”とも形容できるデサントにとって日韓関係の悪化のマグニチュードは大きく、中期経営計画でも韓国事業の先行き見通しは提示されなかった。
ユニクロやGUを展開するファーストリテイリングや、韓国で輸入ビールのトップ争いを繰り広げてきたアサヒビールにも不買運動の影響が及んでいる。ただ、この2社に関しては韓国への依存度が高くはなく、株価への影響も限られている。その意味では、伊藤忠商事が指摘してきたようにデサントの韓国依存度のリスクが顕在化したといってよいだろう。
不買運動がどのようになっていくかは予想が難しい。文在寅(ムン・ジェイン)大統領に対する国民の見方は徐々に変化している。反日感情よりも、最側近である曺国(チョ・グク)次期法相候補に数々の不正疑惑が浮上したことへの批判が増えている。一方で、文大統領は有権者の支持を取り付けようと、日本に対する強硬姿勢を強めることも考えられる。当面、市場参加者はデサントの韓国事業の先行きを警戒せざるを得ない状況が続くだろう。
敵対的TOBによる組織の混乱
また、デサント内部にも、市場参加者の先行き懸念を高めているさまざまな要因があると考えられる。その一つとして、デサント従業員の約9割が伊藤忠商事による敵対的TOBに反対したことは見逃せない。敵対的TOBの実行は、デサントの組織を混乱させてしまった。今後、業況の悪化懸念が高まりやすいことを考えると、同社全体にさらなる不安などが広まることも考えられる。