「大衆車メーカー」トヨタ、なぜレクサス成功?「過去を全否定する」開発、無制限にカネ投入
なぜなら、一般に高級車には長い歴史や伝統、高級なブランドイメージが重要であるとよく言われ、そのために広告などに注力しようとする傾向が強いわけですが、まず品質を第一として数値に落としこみ、しっかりとつくりこんでいった、つまり徹底した機能的価値の追求を行ったという事実を表しているからです。
特化した取組体制
徹底した品質へのこだわりを支える取り組み体制にも注目していきましょう。
トヨタはレクサスを事業ブランドとして明確に打ち立て、トヨタ・ブランドと分離させています。開発陣はトヨタの開発センターと分かれ、レクサスセンターとして別組織化され、事業収益も別建てとなっているわけです。この点に関して担当スタッフは、「つくり手としてレクサスとトヨタのあいまいな境界線をリセットし、両者を乖離させる。経営効率上、両社は絶対分けないほうがよい。だが、われわれはあえて逆の山を登る」とコメントしており、コストよりもこだわりを追求できる体制づくりを優先させたことがわかります。
レクサスセンターには新車開発のためにトヨタ中のエキスパートをかき集め、千数百人もの独立部隊となっていました。トヨタでは通常、ボディ設計やシャシー設計など機能別にフロアや机の島が分かれていますが、レクサスセンターは完全なる大部屋制で、本田技研工業のような“ワイガヤ”の雰囲気となっており、トヨタ車とはまったく別次元でこだわりを追求できる体制が整えられました。
徹底したサービス・販売体制
こだわりの商品を販売するための店舗として、2000億円を投じ超豪華なショールームを一気に143店も新設しています。レクサスの1店舗当たりの建築費は7億円で、トヨタ販売店の3億円の倍以上になっています。さらに、実際のサービスを提供するスタッフの研修も徹底しています。開業時の人員はセールスコンサルタントが約1000名、テクニカルスタッフが約600名、その他のスタッフを含め、計2000名にもおよんでいました。
これらのスタッフが最高のおもてなしを提供できるように、さまざまな研修が行われています。そのための特別な研修施設として、富士レクサスカレッジが2005年3月に設立されました。研修内容については、座学にとどまらない“実体験に基づく理解”を研修の基本とし、具体的にはチーフエンジニア、デザイナーなどと直接意見交換ができる研修、さらには富士スピードウェイ内に開設しているメリットを生かし、本コースや安全研修施設モビリタで走行性能を体感できる研修等を実施しています。
とりわけ、研修においてはスタッフ全員が「レクサスブランドが顧客に提供する価値」をしっかりと理解し、その上で自らが考えて行動できるようになることが重視されています。そのために、ベンツやBMWに乗ったことがないスタッフも多かったため、富士スピードウェイを借り切って、時速150kmでの運転などを含むレクサスとの比較試乗を行い、競合ブランドも含めて乗って実感し、商品を理解するということも行われています。富士レクサスカレッジの責任者は「ライバル車を知らなければ、高速運転でも静かなレクサスのよさを実感できないから。販売員が実際に体験すれば、セールストークの説得力が増すでしょう」とコメントしています。
トヨタは、一般にはコストに厳しい企業として有名です。しかしながら、必要であることには資金を惜しまず投入し、桁違いの取り組みが行われていることがレクサスの事例から窺えます。レクサスの成功は、単なるトヨタ自動車からの新製品というレベルの扱いではなく、徹底した開発および販売体制の構築のもと、実現しているといえるでしょう。
(文=大崎孝徳/名城大学経営学部教授)