具体的には、まず、国民年金の財政均衡から基礎年金の調整が行われ、それを前提に、厚生年金の財政均衡から報酬比例の調整が行われる。国民年金は、厚生年金と異なって財政基盤が脆弱であり、マクロ経済スライドは1階部分(基礎)にもかかるためである。
この問題を改善する一つの方法としては、国民年金と厚生年金を財政的に統合する方法があり、その効果は概ね次のとおりとなる。
まず、厚労省「2019(令和元)年財政検証関連資料」のケースⅢのバランスシートから、国民年金の財源(100年間)は130兆円、厚生年金の財源(100年間)は2270兆円 (1階部分=880兆円、2階部分=1390兆円)である。
他方でケースⅢでは、1階部分(基礎)の給付が約28%カット、2階部分(比例)の給付が約3%カットされることをすでに説明したが、1階部分が28%カット、2階部分が3%カットということは、(カット前の)基礎部分の給付は1403兆円(=<640兆円+370兆円>÷0.72)、(カット前の)2階部分の給付は約1433兆円(=<680兆円+710兆円>÷0.97)である。
国民年金と厚生年金を統合した場合、(カット前の)給付総額は2836兆円(=1403兆円+1433兆円)であり、それが財源総額2400兆円(=130兆円+2270兆円)に一致する必要があるが、財源は2400兆円ではなく、財源総額は2602兆円になる。これは、基礎年金給付が増加すると国庫負担が自動的に増加するからである。厚生年金と国民年金の財源のうち国庫負担は合計520兆円(=440兆円+80兆円)であり、増税が必要になるが、カットしない場合に増加する国庫負担は202兆円(=520÷0.72-520=202)となる。したがって、給付総額(2836兆円)と財源総額(2602兆円)が一致するためには、2602÷2836=0.917で、給付カットは約8.3%になる。
2015年10月1日の「被用者年金一元化法」の施行に伴い、これまで厚生年金と共済年金に分かれていた被用者の年金制度が厚生年金に統一されたが、それと同様、国民年金と厚生年金を一元化(財政統合)することができれば、基礎年金部分の給付カット率は約28%から約8.3%に改善することがわかる。
もっとも、国民年金と厚生年金の財政統合は容易ではなく、統合の前提として、マイナンバーで所得や資産を把握し、公平な保険料負担を課す必要などがあることは明らかだが、デジタル政府戦略でマイナンバー制度も徐々に稼働しつつある今、その可能性についても検討する時期にきているのではないか。
(文=小黒一正/法政大学教授)