楽天&アマゾン超えへの重圧
ZOZO買収が孫氏主導だったとすると、「いつ楽天を抜くんだ」「いつアマゾンを抜くんだ」という重圧は一段と強まる。
TOB価格は1株2620円。
「ZOZOにそんな価値があるのか。孫さんは高値で掴まされた」(大手証券の営業担当役員)
9月11日の終値(2166円)に21%のプレミアムをつけた。裏を返せば、「前澤さんはいい時期に、うまく(持ち株を)売り抜けた」(外資系証券会社の流通担当アナリスト)ことになる。話題をSNSで拡散させ、株価を吊り上げるのが、いつものやり方。2度にわたって持ち株をZOZOに自社株買いさせて、キャッシュを手にすると現代絵画や高級車を買い漁るなどやりたい放題だった。ZOZOの株価は18年7月に上場来高値(4875円)をつけてから、新規事業の失敗で下落を続け、19年2月に1621円とピーク時の3分の1に急落した。19年3月期の連結純利益は21%減り、98年に設立以来、初の減益に陥った。時価総額でみると、およそ1兆円も目減りした。まさに踏んだり蹴ったりだ。
ファッションのECサイトは、もはやバラ色ではない。国内は若年人口が減少し、アパレル市場は縮小傾向にある。買う人の二極化も進んでいる。シャネルなどの高級品を買っても数回着て、メルカリで高値で売る。その一方、身の回り品は一番安いものを買う。ユニクロより同系列のGU(ジーユー)を選ぶ。ストライプ(縞模様の生地)ならストライプインターナショナルが展開するアース&ミュージック&エコロジーというプチプライスのブランドが一番、売れている。
そういう意味でも、前澤氏は自分の会社を売るラストチャンスをうまくキャッチしたということだ。借金をどう返すかを勘案しない大雑把な計算だが、TOBに応じ最大2400億円を手にすると報じられている。
虎(前澤氏)の威を借りてやりたいことをやってきた“前澤親衛隊”の居場所は当然なくなる。苛烈なリストラを経て、ZOZOは普通の上場企業となり、前澤色は一掃される。9月30日のZOZOの株価は2492円であり、ヤフーに“身売り”発表後の高値は、くしくも9月12日の2575円。それでも上場来高値の、ほぼ半分の水準である。
(文=編集部)