ロングテールを「発見」した人々
ロングテールという概念を世の中に送り出したのは、当時「ワイアード」という雑誌の編集長だった、クリス・アンダーソンという人物です。彼はその後も、無料経済について『フリー』、3Dプリンタ等の技術がもたらすインパクトについて『MAKERS』という本を書いて注目を集めました(注1)。今後のビジネス環境に関する水先案内人の一人だと思います。
ロングテールは、オンライン小売業において顕著に見られる現象です。その存在を学術的に示したのは、MITの経済学者エリック・ブリニョルフソンらによる2003年の論文でした(注2)。ブリニョルフソンは最近、テクノロジーの進歩が人々の仕事を奪うことを論じた啓蒙書を立て続けに出版しており(注3)、やはり水先案内人の一人です。
ブリニョルフソンたちが調べたのは、アマゾンとみられるオンライン書店の売り上げ分布です。アマゾンがアイテムごとの売り上げを公表しているわけではないので、独自の方法でそれを推定しています。その方法をめぐっては批判もありますが(注4)、アマゾンのアイテム別売り上げが、程度の差こそあれロングテール型の分布をしていること自体は、間違いないといえるでしょう。
なぜロングテールから利益が生まれるのか
ロングテールが話題になったのは、売り上げが非常に小さなアイテムを切り捨てるのでなく、品揃えに残すことによって、全体として大きな利益を生み出せると主張したからでしょう。邦訳書の副題には「『売れない商品』を宝の山に変える」とあります。これを文字通り受け取ると、まるで魔法のような話に思えます。
ニッチなアイテムを多数取り揃えるだけで本当に大きな利益を生み出せるのでしょうか。
アンダーソンの本を読むと、実はそういう話ではないことがわかります。そこでは、いわゆる売れ筋やヒット商品と、売り上げ分布の裾・尻尾(テール)にあるニッチ・アイテムを組み合わせる戦略が語られています。
ニッチなアイテムを扱いながら利益を確保できる理由として、アンダーソンはオンライン小売業(特にデジタル財)では在庫の追加費用が非常に少ないことを挙げています。しかし、それだけで十分な説明になるのかは疑問です。私自身は、ニッチなアイテムを扱うことで生じる優良顧客を引きつける可能性に注目しています。