図2は、ある小売事業について、オンラインとオフラインのチャネルで、顧客の総購買金額とニッチ・アイテムの購入比率の関係を示したものです。そこから、総購買金額が多い優良顧客ほどニッチを買っていることがわかります。購買金額が非常に少ない顧客もニッチ購入比率が高いのですが、そのアイテムを買うためだけに来店したと考えられます。
優良顧客ほどニッチなアイテムを買っているとすれば、これらを品揃えから外すと、彼らが今後この店舗を訪れなくなるおそれがあります。売れ筋製品は他の店でも売っているので、ニッチな品揃えが来店の鍵になっている可能性は大いにあります。実際のデータを使って研究を深めたいテーマのひとつです。興味がある企業には、ぜひ研究にご協力いただけますと幸いです。
ビッグデータ時代の成功の鍵はロングテールが握る
話をビッグデータに戻しましょう。ストーンブレーカーがいうように、ビッグデータもまたロングテールの構造を持つとしたら、小売業がそうだったように、ニッチな情報の生かし方が成功の鍵になるのではないでしょうか。小規模で分散的で異質な情報を巧みにつなぎ合わせるには、コンピューティング・パワーとアルゴリズムの発展が期待されます。
細部に宿る情報を巧みに利用して個別の顧客の欲求を満たせば、顧客満足度は高まります。しかし、それだけで大きな利益が生まれるわけではありません。その点で学ぶべきなのは、ロングテール・ビジネスの雄とでもいうべきアマゾンです。アマゾンの強さは、ロングテールと規模・範囲の経済性を結びつけていることだと私は考えます。
アマゾンの顧客に対する強みは、普通の店舗を圧倒的に上回る品揃えで、非常にマニアックな注文にも応じられることです。しかし、それだけで終わらせず、顧客に普通の店舗でも売っているメジャーな製品まで購買させ、さらには「定期おトク便」で顧客と長期的な取引関係をつくることにより、安定した収益を得る仕組みを確立しています。
このような見方は、購買力の大きな顧客ほど特定分野に関してマニアックで、ときにニッチなアイテムを求めるという前提に立っています。小売りの世界だけでなく、情報の世界でもそうなら、私が定義した意味でのロングテール・ビジネスモデルの成功例になるでしょう。果たしてそうなのか、今後も研究を続けたいと考えています。
なお、ロングテールに関するもう少し詳しい解説については、拙著『マーケティングは進化する』(同文舘書店)の9章をご覧ください。
(文=水野誠/明治大学商学部教授)
(注1)
『ロングテール』早川書房 http://www.amazon.co.jp/dp/4150504083
『フリー』NHK出版 http://www.amazon.co.jp/dp/4140814047
『MAKERS』NHK出版 http://www.amazon.co.jp/dp/4140815760
(注2)
E. Brynjolfsson, Y. Hu, and M. D. Smith, Consumer Surplus in the Digital Economy: Estimating the Value of Increased Product Variety at Online Booksellers, Management Science, 49(11), 1580-1596, 2003.
(注3)
『機械との競争』日経BP社 http://www.amazon.co.jp/dp/B00ED7SB16
『ザ・セカンド・マシン・エイジ』日経BP社 http://www.amazon.co.jp/dp/4822250997
(注4)服部哲弥『Amazonランキングの謎を解く:確率的な順位付けが教える売上の構造』化学同人 http://www.amazon.co.jp/dp/475981339X