こうした状況を打破するためには、政府の役割が必要だ。政府による規制や税制の改革に加え、リスクマネーの供給(銀行などへの公的資金注入)は、民間のリスク許容度を支える。それは、成長分野への経営資源の再配分にもつながるだろう。政府に求められることは、自ら主導してJICのような投資ファンドを設営することよりも、民間の“アニマルスピリット”を高め、人々がさらなる成長を目指す環境を整えることだろう。
難しい運営とJICの役割期待
このように考えると、JICが新社長の下で求められた機能を発揮できるかは、依然として不透明といわざるを得ない。
まず、政府自らがリスクマネーの供給主体になるのであれば、かなりの覚悟が必要だ。政府に求められるのは、投資ファンドの運営はその道の専門家に任せ、組織の運営や一度決められたことには一切口を出さない姿勢だろう。特にJICの運営に関しては、契約や法律で定められたことが確実に守られたか否か、不透明な点が多いようだ。
JICが投資実務に精通した人材を確保していくにあたっては、この問題は軽視できない。海外では、すべての意思決定は契約に従う。契約に記載された内容は重い。日本では、この考え方が十分に浸透していない。東芝の巨額損失に関しても、契約に定められたオプション行使に関する理解がその大きな原因となったとの指摘が多い。政府がJICの成果実現を目指すのであれば、他の出資者と同じ立場から、投資の実績に関してのみ意見を提示していくべきだろう。
イノベーションの発揮には、人々の成長へのこだわりや野心など、“アニマルスピリット”の高まりが欠かせない。それが、既存のモノや技術と新しい発想の結合を生み出し、ヒット商品の創造につながる。これは民間企業の活力にかかっている。
政府は巨額の資金を出資して民間の活力の向上を目指すよりも、制度面を中心に改革を進め、競争原理が働きやすい環境を目指すべきだ。その中でJICが、民間投資家が手を出しづらいごく小規模の起業案件などに資金を提供することができれば、日本のダイナミズム引き上げにもプラスの効果が期待できるだろう。
JICと同様の機能を期待されているINCJ(旧産業革新機構)に関しては、ジャパンディスプレイ(JDI)の経営悪化を食い止めることができなかった。経済の専門家のなかには、官民ファンドは成長資金の供給者としてではなく、経営が悪化した企業の延命措置になっているとの厳しい見方を持つ者もいる。投資実績などを見る限り、JICをはじめとする官民ファンドの運営に関する考え方は改められるべき時を迎えている。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)