3カ月に及ぶすったもんだの末、ようやく先週末(12月12日)、自民党が公明党の主張を丸呑みするかたちで、再来年4月に税率を10%に引き上げる消費増税の際に税率を8%に据え置く軽減税率の導入案がまとまった。とはいえ、その中身は問題の先送りと羊頭狗肉の“軽減”で、両党が貴重な時間を建設的な議論に使ったとは言い難い。
両党が真っ向から対立した対象品目については「酒と外食を除く食品全般」で決着したものの、約1兆円が必要とされる財源は「16年度末までに安定的な恒久財源を確保する」と議論を先送り。脱税の防止に不可欠なインボイス(税率や税額を記載した税額票)導入に至っては、実施そのものを軽減税率導入から4年も先送ることになった。
さらに、今回、両党が議論の俎上にさえ載せなかった課題も山積みだ。特に、先進7カ国(G7)の食品軽減税率のなかで最も高い税率(8%)の引き下げと、電気、ガス、水道、医薬品といった生活必需品への対象品目の拡大は急務である。
混乱した協議
自民党の税制調査会といえば、かつては長老議員の牙城で、時の首相をはじめ何人も容易に介入できないサンクチュアリ(聖域)として知られていた。その党税調が今回ほど当事者能力を発揮できなかった例も珍しいだろう。
発端は9月。まだ国民の手元に通知書も届いていなかったマイナンバーを利用して、国民の経済活動をすべて把握するという財務省作成の軽減税率導入案を打ち出したことだ。自民党総裁選で勝利し内閣改造を終えた安倍政権は、マイナンバーを利用する限定的な軽減税率導入案を打ち出した野田毅・自民党税調会長を事実上、更迭。マイナンバー案を葬り去ると共に、新聞各紙から「軽量級」と評されることになる宮沢洋一・前経済産業大臣を後任に据えた。
そして、菅義偉官房長官が「与党の連立合意がある。約束していることは政権としてしっかり進めていきたい」と公明党との連携を打ち出した。その後、自民党側の主導権は財政再建優先派の谷垣禎一幹事長に移り、同幹事長は4000億円が財源から見た予算の上限だとして、対象を「生鮮食品」に絞り込み、8200億円を必要とする「飲料・菓子を除く加工食品」という公明党案を排除しようとすると、菅長官が「首相が具体的な数字まで指示したとは承知していない」などと発言、公明党を側面支援した。この背景には、参院選を来夏に控えて、公明党との連携関係に水を差したくないとの意向が働いていたとされる。