プラスは、ぺんてるの友好的な第三者・ホワイトナイト(白馬の騎士)の役割を演じる。コクヨとプラスは文具業界で「KP戦争」を闘っている宿命のライバルだ。プラスは株式買い付けのための共同事業体をつくり、コクヨが11月15日にぺんてるを買収すると発表した際の条件(1株3500円での買収)と同じ額を提示した。他社との合併など重要事項を単独で否決できる33.4%を上限に、12月10日まで株式を買い取るとしている。応募が20%に満たないときは買い取らない。
コクヨは11月20日、プラスへの対抗策として、ぺんてる株の買い付け価格を1株3750円(従来は3500円)に引き上げた。プラスが、3500円となっている買い取り条件を引き上げるかが次の焦点。ぺんてるはプラスとの経営統合を望んでいる、といわれている。
コクヨ側に隠れリスク
コクヨがぺんてるに敵対的買収を仕掛けると発表した真の狙いは、ぺんてるの株主に「1株3500円で買いますから、手を挙げてください」とアピールすることにあった。プラスの参戦で1株3750円に引き上げた。
「コクヨはぺんてるの正式な株主名簿を持っておらず、個別に買収を働きかけることができないので経済ジャーナリズム(マスコミ)を利用した」(ぺんてる関係者)
ぺんてる側は当然、個別の株主を株売却をしないよう説得している。さらに、一歩踏み込み、ぺんてるは11月19日付で株主に書簡を送り、「プラスに売却するよう」促している。コクヨが13%弱の株式を追加取得するのに必要な資金は38億4000万円。年商約3200億円のコクヨから見れば、大きな金額ではない。
ぺんてる創業家(元社長)が投資ファンドに持ち株を売却したときは1株2000円。投資ファンドがコクヨに持ち株を譲った際には同3000円だった。3500円という今回の買収金額は、「かなり奮発した額」(M&Aに詳しいアナリスト)とされたが、プラスの参戦で、買い付け価格を引き上げざるを得なくなった。誤算だろう。
コクヨがぺんてる株式の50.1%を握ることができ、連結子会社に組み込んだとしても、ぺんてる側が態度を軟化させなければ、連結子会社化の効果は薄れる。もし、コクヨが新規に取得した株式の名義書き換えを、ぺんてるが拒否したらどうなるのか。連結子会社になった、ぺんてるがコクヨの監査法人の監査を受け入れなければ、コクヨの決算ができなくなるおそれがある。
「もし、決算報告書を期限内に提出することができなければ、コクヨは上場廃止になるという、大きなリスクが隠されている」(公認会計士)
そのため、コクヨは株式を売る意思を示したぺんてるの株主から委任状を出してもらい、臨時株主総会を招集して、議決権の半分を握り、現経営陣を一掃することを考えているとされる。強引に経営権奪取に動いたコクヨが払う代償は、想定外の大きなものになるかもしれない。プラスの参戦で、コクヨに勝算はあるのか。
(文=編集部)
【続報】
ぺんてるの経営権の争奪戦が一層、熱くなってきた。コクヨは11月29日、ぺんてる株の買い付け価格を3750円から、一気に4200円に引き上げた。ぺんてる株式の買収には46億円以上かかることになる。予定より5億円強増えた。買い付け期間は12月15日までとしていたが9日までに短縮した。
ぺんてる経営陣が“白馬の騎士”としているプラスの買い付け期限は12月10日だ。1日前に一気に勝負をつける気である。今回の条件変更は、持ち株を(コクヨ、プラスの)どちらに売ろうか迷っているOB株主の決断を促すものだ。「どちらにも売らない」としてきた株主も4200円なら考えるだろう、との読みがコクヨにはある。
ぺんてるの元社長の水谷寿夫氏の署名の入ったこんな手紙がOB株主に届いている、という。「存続自体が危うくなります。ぺんてるの経営陣をご支援願います」。ぺんてるの和田優社長も株主のもとを回り、「プラスの友好的買収に賛同するよう」働きかけている。ぺんてるの取締役会はプラスの株式買い取りに賛同することを決めている。非上場のぺんてるの株主はおよそ340人。「水谷氏の持ち株や従業員・役員持ち株会などで約30%を押さえている」(ぺんてる関係者)といわれている。
コクヨの黒田英邦社長が日経の取材で<ぺんてる株を過半数取得できた場合、ぺんてるの経営陣を刷新する、意向を示した>ことがどう作用するかだ。
<「執行役員や現場のリーダーには優秀な人材がたくさんおり、その中から(新しい経営者を)抜擢したい」>としたが、「強権的な手法でぺんてるを屈服させても買収後の経営のカジ取りは大変だろう」(文具業界をカバーしているアナリスト)との指摘もある。ぺんてる社員からは「会社はどこへ行ってしまうの」と不安視する声が挙がっている。
コクヨ、プラスの両陣営の買い付け期限まで残りは、およそ1週間。コクヨvsぺんてる・プラス連合軍のどちらが勝っても後遺症は残る。