官民ファンドの産業革新機構は保有する半導体大手ルネサスエレクトロニクス株式の一部を売却する検討に入った。ルネサスは日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門が統合して2010年に発足したが、東日本大震災による工場の被災や円高で経営危機に陥った。13年、革新機構は1383億円を出資し、同社株式の69.15%を持つ筆頭株主となった。その後、1万人超の人員削減などリストラを実施し、15年3月期の最終損益は825億円の黒字に転換。16年同期の最終損益も629億円の黒字を見込んでおり、革新機構は経営再建に一定のメドが立ったと判断した。
株式を一定期間売却できない契約が15年9月末に解除された。そこで革新機構は投資した資金の回収に動く。出資比率を69.15%から50%未満に引き下げたい意向とされる。
11月20日付米ウォール・ストリート・ジャーナルは、ドイツの半導体大手インフィニオン・テクノロジーズがルネサスへの出資に関心を示していると報じた。だが、「日本側が海外への技術流出を懸念しているため、交渉は停滞している」という。
ルネサスには革新機構と共に8社が出資した。現在の主な株主は日立 (出資比率7.66%)、三菱電機(6.26%)、トヨタ自動車(2.49%)、日本電気(0.75%)、ケーヒン(0.49%)、デンソー(0.49%)、キヤノン(0.24%)、パナソニック(0.24%)。いずれも15年9月末時点でこれだけの株式を保有している。
ルネサスが経営危機に陥った際、米投資会社コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が買収に名乗りを上げた。ルネサスの最大の顧客は自動車メーカーだ。ルネサスの技術が海外に流出することを恐れたトヨタが政府に働きかけ、革新機構が出資した経緯がある。政府は半導体を産業の柱のひとつとしてとらえている。自動運転車向けに需要の拡大が見込める分野であり、海外企業に売却するつもりはない。
売却先としてトヨタ、パナソニック、日立製作所、三菱電機といった既存株主が候補に挙がる。経営危機の際に出資したキヤノンやデンソーにも追加支援を打診する。前回と同様、複数の企業が少額ずつ出資するオールジャパン体制に落ち着く可能性が高い。
ルネサス株式の時価総額は1兆3000億円(12月15日時点)。数%分を引き受けるだけで出資額は数百億円に上るため、交渉は難航が予想される。
ルネサス株売却の目的
革新機構がルネサス株式を一部売却するのは、経営不振のシャープ再建支援の軍資金を得るためだ。革新機構はルネサスや中小型液晶大手ジャパンディスプレイ(JDI)を支援した時には、いずれも株式の約70%を握った。シャープでも、このやり方を踏襲する。革新機構が主導して、シャープが液晶事業を分社化した後、JDIとの事業統合を目指すというシナリオだ。