仏政府はルノーへの関与を強める意図を隠さない。一方、ルノーは仏政府に持ち株の一部を放出するよう求めたが、仏政府の答えはノーだった。仏政府とルノーの対立は膠着状態に陥った。
そこで、日産は強行策に出ることを決断した。15年11月30日、臨時の取締役会を開き、仏政府がルノーを通じて日産の経営に介入しないよう書面で約束することや、事前の了解なしに日産がルノーの株式を追加取得できないという契約の見直しを求めることを決めた。この提案が認められない場合には、ルノーに対する出資比率を25%以上へと引き上げることも検討すると表明した。日産が目をつけたのは日本の会社法308条だ。「25%ルール」と呼ばれ、議決権ベースで4分の1以上の株式を有している企業に対して、自社の議決権の行使を認めないというものだ。
「日産によるルノーへの15%の出資は仏会社法によって議決権はないが、308条には外国の法令によって議決権行使できない株式を含むという施行規則がある。この規則によれば、日産がルノー株を買い増せばルノーに議決権が無くなり、経営への介入を遮断できる」(12月13日付日本経済新聞)
ルノーとの契約を破棄すれば、両社の関係にヒビが入りかねない。日産の要求は諸刃の剣だった。日産の持つルノー株式には、もともとルノーへの議決権がない。日産がルノー株を25%以上まで買い増すと、双方に議決権がないという異常な状態に陥る。仏国内の雇用を守るという観点からみても得策ではないと仏政府は判断し、矛を収めた。
ポストゴーン
日産が仏政府の経営介入封じ込めに成功したことは、日産とルノーの「ポストゴーン」のトップ人事に多大な影響を及ぼすことになる。ゴーン氏の権力の源泉は、筆頭株主である仏政府を後ろ盾にしていたことにあったが、ゴーン氏が仏政府に反旗を翻した。仏政府とゴーン氏の蜜月関係は終わった。仏政府は日産の経営に介入することはできなくなったが、ルノー株式の28%の議決権を持っており、いつでもルノーの経営に介入することができる。
早くも、ルノーのトップ交代の観測が流れているのは、こういう背景があるからだ。16年、欧州自動車工業会の会長は、ゴーン氏から、ダイムラーのディーター・ツェッチェCEOに交代する。それに合わせて、ルノーのCEOが交代するとの見方が浮上しているのだ。