数年前からブームとなり、今も次々と発売されている有名ラーメン店とコラボレーションしたカップ麺。セブン&アイ・ホールディングスのプライベートブランド(PB)「セブンプレミアム」シリーズの「一風堂」「蒙古タンメン中本」などは定番商品となっており、今やカップ麺業界には欠かせないジャンルとなっている。
店側にとっては宣伝となり、メーカーも新たな切り口の商品を打ち出せるということで、まさにウィン・ウィンのコラボといえるが、なかには味の再現性が低く、逆に客足が遠のいてしまったといった悲惨なケースもあるという。
ヒット商品となるのか、はたまた有名店の看板に傷をつけてしまうことになるのか。その鍵を握るのは、メーカーの開発担当者だ。そこで、食品メーカーの研究職として製品開発・製造・品質保証に携わってきたみるおか氏(ブログ「レコメンタンク」運営)に、有名ラーメン店をはじめとするコラボ商品の開発事情について聞いた。
再現が難しい「味のニュアンス」
まず、飲食店や料理人とのコラボ商品を出すとなった場合、開発過程ではコラボ先の意向が最優先されるという。
「店名や料理人の名前がパッケージに載ることになるため、味の再現度が低いと、コラボ先の飲食店や料理人の評判にも大きく影響します。そのため、メーカーはコラボ先が認める水準に達するまで、官能評価と試作をひたすら重ねます。商品コンセプトはメーカー側が決めたとしても、味はコラボ先が認めるレベルまで仕上げていくため、メーカー判断での妥協はしにくいです」(みるおか氏)
試作を重ねた結果、発売スケジュールが変更されたり、開発がうまくいかずにコラボ自体がなくなったりすることもあるという。これは、メーカーがコンビニやスーパー、大手小売店とのPBを開発するプロセスにおいても起こり得るという。
コラボを求められるような有名店ともなれば、「ほかにはない味」が売り物となっている。その味を再現するため、さまざまな調味料や素材を組み合わせて味を近づけていく作業が繰り返されるという。
「新たなコラボ商品を開発する場合、珍しい、高価な素材を特別に使用しない限り、調合する素材の種類の多さはそこまでコストに影響しません。既存製品に使っている素材を流用し、小ロットの原料も最小限にできればコストも抑えられます。ただし、味の再現のために新しい素材をゼロから探す、または開発するとなると、開発期間もコストも膨れ上がります。ラーメンに限っていえば、基本的な調味料は既存品を使えますし、ベースの味だけなら配合を変えるだけである程度“味の再現”ができることもあります。」(同)
難しいのは、配合だけでは再現しづらい「味のニュアンス」だ。
「ここまでは、難易度はそんなに高くありません。しかし、“一晩寝かせたコク”や“何時間も煮込んだ”といった味のニュアンスは再現しづらく、工程と時間が増えるためコストも上がります。そうなると、価格を上げるか、利益率を妥協するか、類似の素材でコストを下げるか、などのポイントが議論の対象になってきます」(同)
このように、コラボ商品の開発には通常製品以上の苦労や手間がつきまとう。それでも、メーカーや小売各社は盛んに有名店とコラボしたがるという。
「通常製品とそこまで変わらない製造原価だったとしても、有名店のブランドを冠することで価格を高く設定できます。説得力も増し、通常製品以上の利益を上げられることもあります。とはいえ、コラボ商品ならなんでも売れるという時代はとっくに過ぎ去っているので、マーケティングや企画の段階でコストに見合う販売量と利益が見込めるかを精査して、価格設定をしています」(同)
有名店のネームバリューに見合ったクオリティーを担保し、双方がうまみを得るという状況を実現するのは、やはり容易ではないようだ。
(文=五木源/清談社)