危機迫る東芝、いまだ必死に隠蔽する重大問題…利益はいくらでも小手先で操作できる
東芝不正会計事件の報道から見える、利益に対する誤解
報告書が公表されて以来、さまざまなメディアで各分野の専門家が解説を行っています。そこで感じられるのは「利益」に対する間違った理解です。筆者は、拙著『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか?』(ダイヤモンド社)で、利益を次のように説明しました。
「利益とは売上と費用の差額のことだ。利益は計算結果であって、手にとって確かめることはできない。このことが、会計を謎にしているのだ」
謎とは大げさな、と思う人もいるかもしれません。売り上げと費用を少し変えるだけで、利益は変わってきます。また、会計処理には経営者の判断という要素が入り込むので、経営者の考え次第で利益の額は変わってきます。それだけ会計上の利益は微妙なのです。
東芝による不正会計処理の多くは費用操作によるものでした。当期の費用を次期以降に先送りすれば、その額だけ利益は増えます。しかし、利益が増えても会社の実態はいささかも変わらない。当然ではありますが、東芝の社長は、利益は小手先でコントロールできることを知っていました。
費用の先送りも、一部で行われた部品の有償取引に関する利益のかさ上げも、いずれ利益計算に反映されることになります。架空売り上げや本格的な循環取引に手を染めていないのは、おそらく東芝の経理担当者のプライドが防波堤となったのだと思いますが、経営者は会計を操ろうとして「会計の罠」にはまってしまいました。
15年7月29日放送のテレビ番組『クローズアップ現代』(NHK)は、08年以降の東芝の厳しい状況を次のように報道しています。
「東芝に異変が起きたのは、西田(厚聰)氏が社長だった08年のリーマンショックの頃でした。世界的な景気悪化で売り上げが激減。過去最悪となる3435億円の赤字に陥ったのです。この時期から、西田氏は業績を上げるよう部下たちに強く迫るようになりました」(『クローズアップ現代』より)
「東芝は事業ごとに独立採算とする社内カンパニー制度をとっていて、社長がこの各カンパニーを統括する仕組みとなっています」(同)
「西田氏は月に1度、社長月例と呼ばれる会議に各カンパニーや主要子会社の責任者を呼び寄せました。具体的な金額を挙げて『利益を死守しろ』などと発言。利益をかさ上げする会計処理が行われるようになりました」(同)