あなたが電力自由化でカモられないために…なぜ電力会社を替える/替えない人に二分?
ここでネックとなる「様子見」行動について、心理学と経済学を合わせた学問である行動経済学の視点で考えてみたい。行動経済学は、一見不合理に見える人間の選択や行動に関して一定の法則を見つけ、実験によって証明する学問である。米国プリンストン大学のダニエル・カーネマン教授はこの分野の研究でノーベル経済学賞を受賞している。
今回の検討においては「反転効果」という法則が参考になるだろう。これは、同じ選択を迫られた場合であっても、選択する人間が置かれた状況によって判断が変わってしまうというものだ。
たとえば「選ぶことで何かを得られる」といったポジティブな状況下で人間はリスクをとらず、小さくても確実なメリットを求める。逆に「放っておいても何かを失ってしまう」ネガティブな状況で人間は、“一か八か”を狙ってしまう。リスクが高くても、得られるメリットの高いほうを選ぶのだ。
典型的な事例が、ギャンブルにおける行動に見られる。負け続けた1日が終わる最終レースにおいて、人間はリスクの高い大穴を狙う傾向がある。負けを取り戻そうと残金を一度に賭けるのだ。しかしその結果、持ち金をすべて失う結果に終わる確率が高い。レースの展開を読んだり、勝てる可能性を冷静に判断することなく、勝てた場合に得られる配当のことだけを考えて馬券を買うためだ。実際の競馬においても、注目度が低く予想も難しい最終レースで、異常に大きな馬券売上げ額を記録することがあるという。これは「最終レース効果」とも呼ばれ、まさに「反転効果」の影響を受けた不合理な人間の行動だ。
この反転効果は、今回のテーマである電力の自由化において、どう影響するだろう。
たとえばある人が、電気について不満はなく、自由化された際は若干程度メリットを受けられるかもしれない、といった認識を持っているとする。反転効果の法則によれば、この人は電力会社を変えないだろう。不満や危険のないポジティブな状況であれば、新規参入企業に変えるリスクは極力避けたいと考えるのだ。
逆に、自由化を機に電力会社を変えなければ損をするのではないか、と感じている人は、電気代節約などのメリットを求めて変える可能性が高い。ネガティブな心理のもとで人は、一か八かであってもリターンを取るのである。
これら2種類のパターンは、一方が正しく他方が間違い、といったものではない。現状における生活者心理は白紙であり、どちらに傾く可能性もある。