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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

スーツが売れない…地獄的不況の業界で、2着4万円オーダーメイドがバカ売れの店が!

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

「葬儀のスタッフは黒いスーツ姿で作業するので、動きやすさと耐久性を重視しています。特に葬儀会場の準備や後片付けといった軽作業で体を動かすことが多く、摩耗しやすい上着の脇やパンツの股部分は、生地を補強するなどして仕上げています」(同)

 既製品のスーツではできない部分に、細かく対応することで信頼を高めている。

のれん分けで独立し、VF甲府の公式スーツも手がける

スーツが売れない…地獄的不況の業界で、2着4万円オーダーメイドがバカ売れの店が!の画像316年版ヴァンフォーレスーツ

 実は、「甲府店」と名前がついているが、ミスターカンパニーが運営する店は甲府市内の1店舗しかない。もともとアークを創業したのは坂本氏の師匠にあたる千須和八太郎氏だ。現在、静岡県と長野県に「アーク鷹匠店」など6店舗を構える千須和氏は山梨県身延町の出身で、東京の紳士服オーダー店に就職して紳士服業界に入った。

 紳士服一筋で40年以上の経歴を持つ千須和氏は、同業界で裁断、仕立て、縫製などの作業を学び、百貨店内のテナント店長、独立店の店長などを経て1990年代に起業。長年培った人脈や流通ルートを生かして、2着で3万9800円のオーダースーツを生み出した。

 坂本氏は山梨県北杜市の出身だ。大学卒業後、甲府市の山交百貨店に入社して店舗に配属された。この時期に紳士服オーダー店の店長だった千須和氏と出会った。その後、坂本氏は県内の精密機器メーカーや宝飾メーカーなどに転職した後、千須和氏が甲府市で創業したアークに入社し、10年ほど勤務した後に独立した。

 在職中に千須和氏から、仕立て職人との信頼関係の築き方などノウハウを学び、のれん分けのかたちで本拠地を静岡県に移した師匠の跡を継いだのだ。フルオーダーではなくイージーオーダーなので仮縫いは行わない――といった手法も受け継いだ。

 現在のアーク甲府店は、坂本氏と大森令子氏の2人で切り盛りする。坂本氏と大森氏は千須和氏が経営したアーク時代の同期入社で、現在は大森氏が店内接客を担当する。紳士服店だが婦人用も一部取り扱い、業績も年々拡大している。顧客数は約5000人だという。

 現在、同社は日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)1部のヴァンフォーレ甲府(VF甲府)の公式スーツも担当する。もともとVF甲府の経営幹部と千須和氏が旧知の仲だった関係から、坂本氏が受注した仕事だ。これによって同店の認知度も拡大した。

「選手も採寸に訪れてくれますし、毎年、一般向けに『ヴァンフォーレスーツ』という選手と同じモデルの商品を1着3万8000円で販売しています。若いサポーターは『スーツを買うなら選手と同じものを着たい』と来店してくださり、山梨県外のお客さんも増えました」(坂本氏)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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