スーツが売れない…地獄的不況の業界で、2着4万円オーダーメイドがバカ売れの店が!
スーツ離れの時代に、どう訴求していくか
そうはいっても、消費者意識の潮流が変わらない限り、今後も市場の冷え込みが予想される。紳士用スーツ市場が急激に落ち込んだのは、次の理由が考えられるからだ。
(1)「クールビズ」の浸透と職場環境の変化
これから初夏になると、スーツを着ない「クールビズ」の季節となる。以前のように6月1日から9月30日までではなく、ゴールデンウィーク明けから取り入れる職場も増えた。また、IT業界の会社員など一年を通してスーツを着ないホワイトカラーも多い。
(2)少子高齢化でスーツ人口が減少
労働人口が少なくなると、紳士服の需要も減る。特に2015年4月1日で、人数の多い団塊世代(1947年~49年生まれで700万人超)の一番下の年代(1950年の早生まれまで)が全員65歳を迎えた。経営者・役員や一部の技能者以外は定年退職となったのだ。ホワイトカラーだった人も定年になるとスーツを着る機会が激減する。
(3)スーツ価格の下落
昔は普通レベルのスーツも高かった。その価格を引き下げたのが「洋服の青山」(青山商事)などの量販店だ。同店の躍進に象徴される「価格破壊」は94年の「新語・流行語大賞(トップテン入賞)」に選ばれた。以後20年たち、普通のスーツ価格も下がった。
いずれもスーツ業界にとっては逆風だが、オーダーメイドスーツに関しては新規需要も促せる。たとえば(1)では、スーツを着る機会が少ないからこそ「自分に合ったオーダーメイドスーツを」と働きかけることもできるのだ。
(2)では、退職世代も一切スーツを着ないわけではない。アーク甲府店は「親戚の結婚式があるのでスーツをつくりたい」という年配者も顧客としている。(3)の価格下落も、オーダーメイドスーツには追い風となった。
「山梨県は商圏が小さく、当社のスタッフは2人だけなので、現状では店舗拡大は考えていません。一人ひとりのお客さんと真摯に向き合った結果、顧客数が増えました。たとえばお兄さんがつくって気に入ったら弟さんが来店してくださるということも多いのです」(同)
同店では一部だけ対応する女性用スーツも、今後の市場として注目している。働く女性が当たり前となり、有力取引先との商談など重要な場面を担う女性が増えているからだ。
坂本氏のような起業家は、近年は少人数で会社を運営する人も多い。限られた人数では、まず「何をやらないか」が経営視点となる。その意味で、イージーオーダーに徹して手間のかかる仮縫いは行わず、店舗も広げない同店の事例は参考になりそうだ。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)