利益はひとつではない
本連載前回記事に引き続き、東芝が2015年7月20日に発表した不正会計問題に関する調査結果報告書や各メディア報道などを検証しながら、東芝が不正会計に走った真の目的について考察していきます。
利益至上主義は、経営の観点からすれば間違いです。利益には「短期利益」と「長期利益」があります。短期利益は四半期や1年間などに区切った期間利益のことで、財務会計はこの短期利益を利害関係者に報告することを目的としています。
会計のサイクルが1年であっても、ビジネスは1年間で1回転しているとは限りません。原子力事業のビジネスサイクルは1サイクルが数年に及びますが、白物家電はせいぜい半年といったところでしょう。つまり、業種によってビジネスサイクルは異なるということです。にもかかわらず制度上の要請で、一定期間で区切った短期利益を決算書で報告しているわけです。
短期利益は、フルマラソンでいえば1キロメートルごとのラップタイムに例えることができます。フルマラソンで大切なことは42.195キロを最速で走ることですが、株主や金融機関の目を気にする利害関係者は、目先の区間記録だけを追い求める経営を行いがちになります。フルマラソンである企業経営にとっては長期利益が重要なのに、短期利益を追ってしまうのです。東芝の社長はその典型でした。
短期利益追求型経営の危うさを明確に指摘したのは、経営学者ピーター・ドラッカーでした。
「事業の目標として利益を強調することは、事業の存続を危うくするところまでマネジメントを誤らせる。今日の利益のために明日を犠牲にする。売りやすい製品に力を入れ、明日のための製品をないがしろにする。研究開発、販売促進、設備投資をめまぐるしく変える。そして何よりも資本収益の足を引っ張る投資を避ける。そのため、設備は危険なほどに老朽化する。言い換えるならば、最も拙劣なマネジメントを行なうように仕向けられる」(『現代の経営』より)
東芝は、まさにドラッカーが言う「最も拙劣なマネジメント」がまかり通っていたのでした。
長期利益の重要性
巨大企業の経営者が、長期利益の重要性を理解していないはずはありません。にもかかわらず、なぜ東芝の経営者たちは、短期利益に固執したのでしょうか。おそらく、株価が急落することを恐れていたからでしょう。株主に見放されないためには、利益を維持し、自己資本利益率(ROE)を高めることが経営者の義務だと信じていたのでしょう。