繰延税金資産
もう一つが繰延税金資産です。これは、会計上の費用と税務上の損金との認識期間のズレによって生じる科目です。会計上は当期の費用であっても、税務上は翌期以降の損金となる場合、その額に関わる法人税額は、将来の会計期間に帰属すべき税金費用を当期に前払いしたと考えられ、これを翌期以降に資産として繰延処理します。繰延税金資産の計上と同時にマイナスの法人税等調整額が計上されますから、同額だけ当期純利益の額は増加します。そして、将来帰属すべき税金費用(損金)が実現する時点で繰延税金資産は減少し、同額の税金費用が計上されることになります。もしも将来利益が見込まれないことが明らかになった場合、もはや税金資産を繰り延べる理由がなくなります。
したがって、繰延税金資産の計上に当たっては、税金費用の実現する将来時点で、十分な当期純利益が確保されていることが条件となります。すなわち、将来時点において十分な当期純利益の確保が想定できない場合には、税効果会計の適用はなく、繰延税金資産の計上は認められなくなり、取り崩しが必要になるわけです。もしも巨額ののれんを減損処理すれば、繰延税金資産を取り崩すことになり、会社の損失はダブルで増えてしまうわけです。
すなわち、東芝の運命を左右する地雷は「WHの買収ののれん」と「繰延税金資産」だったのです。
結論
昨年7月に調査報告書が公表された時の東芝に関する報道の多くは、極めて単純化されたものでした。すなわち、絶大な権限を持つ社長が社内カンパニーの責任者に対して、達成不可能な要求を繰り返していた。各カンパニーと財務部門は、会計処理でごまかすほかないと考え、結果として1518億円という莫大な額の利益のかさ上げに走ってしまった、という構造です。
つまり不正会計を仕向けた社長は悪で、意に反して架空の利益計上に走ってしまった各カンパニーの責任者やそこで働く従業員は被害者、そして、お目付役であるはずの外部取締役も、監査役も、そして不正を見抜くプロであるはずの監査法人も役目を果たせなかった、というわけです。