三菱自の多目的スポーツ車(SUV)「パジェロ」はタイやインドネシアでは人気が高い。日産はトヨタ自動車やホンダに比べてアジアのシェアは低い。中国を除くアジアの販売台数が世界販売に占める割合は10%にも満たない。三菱自のタイなど複数の生産拠点を活用して東南アジアで現地生産に乗り出し、日産車の販売を増やしたいとの思惑がある。
両社は軽で共同戦線を張っているが、電気自動車(EV)の開発でも協力する。EV路線で孤立気味の日産にとって三菱自は数少ない仲間でもある。EVの軽の共同開発が、資本提携後の最初のプロジェクトになる可能性もある。
軽の生産拠点を持たない日産は、三菱自が潰れては困るのである。燃費データ改竄問題で、日産の被害がどの程度になるかを今後精査することになる。日産側が請求する金額が多くなればなるほど、投資額2373億円から実質的に相殺される。
“ゴーン流”のしたたかな駆け引きが展開されることが予想される。三菱自の経営危機が、日産にとって絶好のチャンスとなったことだけは間違いない。
周到な準備
三菱自の軽自動車4車種の燃費データの不正は日産自動車の指摘で発覚した。日産が重たい事実を伝えたのは昨年秋だったとされる。三菱自がこの事実を公表したのは今年4月20日だった。相川氏の記者会見における対応のまずさも影響し、新車販売台数が半減するなど三菱自はあっという間に窮地に追い込まれた。
「創業以来の経営危機」(三菱グループ企業の首脳)
「日産は今年に入ってすぐから、少人数のタスクフォースを編成。三菱自を買収する場合のシミュレーションを行ってきた。4月20日の相川氏の記者会見を見て、日産側は『三菱自は持たない』と判断。具体的なプロポーザルを策定する作業に入った」(日産筋)
この間、三菱自の株価は急落した。大型連休最終日の5月8日、ゴーン氏は動いた。軽の共同開発会社を立ち上げるときの窓口で、気心も知れている益子氏に直接、資本提携を申し入れた。
三菱自はこの提案に飛びついた。三菱グループ御三家の支援が、前回の経営危機のときのように期待できないこともあって、益子氏は日産の傘下入りを決断したという。短期間のうちに交渉がまとまったのは、三菱自がそれだけ切羽詰まっていたからである。