小林幸子、なぜ奇跡の復活劇?自らデジタルを核に「変化」し、新たな顧客を獲得
顧客のいる場に自ら赴く
変革をする上でまず重要なことは、新しい顧客を知ることにある。その際、顧客が来るのを待っていてはいつまでたっても新しい顧客のことはわからない。自分のほうから顧客が多く集まる場に積極的に向かい、接点や交流を増やすことが重要だ。小林も14年から若者が多く集まるコミケに5884組(コバヤシグミ)として参加。
自らミニアルバムCD『さちさちにしてあげる♪』や『さちへんげ』等を手売りで販売。毎回コミケ会場の外まで「通称・幸子坂」と呼ばれる長蛇の列ができ、販売開始から数時間で1,000枚以上のCDが完売するほどだ。小林は、買った人たちと握手や写真撮影をするだけでなく、買えなかった人たちにも握手しながら謝罪して回るなど、ファンとの交流を大切にし、それがネット上でのさらなるファン層の拡大につながっている。また、コミケ以外にも、ニコニコ超パーティーやニコニコ町会議、カウントダウン・ライブなど、若者が多く集まるニコ動のイベントに多数参加し、未知の世界での交流を短期間で拡げることに成功した。
コンテクストに合わせて価値をチューニングする
小林がなぜ短期間で若者やネット社会で受け入れられるようになったのか。
そのひとつは、小林幸子が以前からネット上でいじられていた「ラスボス」という愛称を受け入れ、本人もそれを積極的にブランディングに活用してきたことが大きい。もともとは09年の『紅白』で、高さ8.5メートル、幅8メートル、奥行き5.4メートルで重さ3トンもの舞台装置のような巨大衣装で登場したときに「メガ幸子」と呼ばれたことがきっかけだ。それがネット上で「ラスボス」に転じて、親しまれるようになった。
この愛称が、歌唱力と迫力のある衣装による存在感から連想されていることを本人も認識しており、ニコ動のカウントダウン・ライブでも、ステージ上に建設された衣装をスクリーンで拡張することで巨大衣装「幸子城」をバーチャルに出現させたり、ニコニコ超会議の始球式で、バズ―カ砲を手に持って登場し、球速「999キロ」を叩きだす演出をするなど、顧客が期待している「ラスボス」としてのブランディングを徹底し、着実にファンの期待に応えている。
顧客起点で垣根を越える
この数年間での小林の大胆なチャレンジは、ニコ動やコミケだけではない。もうひとつのシンボリックな取り組みは、ボーカロイドだろう。演歌歌手として初のボーカロイドの声を担当し、本人の掛け声など400種類の声の素材が入ったVOCALOIDライブラリ「Sachiko」を販売している。