なぜバフェットは投資で高収益を達成し続けられる?なぜノウハウ公開でも他の人は失敗?
これまで本連載ではROEを中心にファイナンス理論について紹介してきましたが、今回は2月末に公表された世界一の投資家であるウォーレン・バフェットからの手紙を紹介します。バフェットは毎年2月末に会長を務めるコングロマリット企業バークシャー・ハザウェイが発行するアニュアルレポートに「株主への手紙」を掲載しており、投資に関心を持つ世界中の人々がこの手紙を参考にしています。
バフェットは、師匠であるベンジャミン・グレアム(『賢明なる投資家』の著者)と同じように自らの投資成功の秘訣を惜しみなく公開していますが、相変わらずほとんどの投資家がベンチマークとなる市場指数(日本では主にTOPIX)を下回っている状況は皮肉なものです。投資の世界には、投資を失敗させる構造的な要因が存在するのでしょう。
では、2015年度版の「株主への手紙」から私が興味深いと思った部分を紹介していきましょう。
自社株買いの基準
自社株買いは、最近では次の二つの目的のために活用されている印象があります。どちらの目的も、ファイナンス理論の考えとは大きく異なります。ファイナンス理論では、自社株買いは、他に投資案件がなく、かつ株価が十分に割安な場合に実施すべきものであると考えられています。
・成長企業のフリ:EPS(一株当たりの当期純利益)を増大させる
EPSは当期純利益を発行済み株式総数で割ることによって算出されます。ですので、自社株買いにより発行済み株式総数を減少させることにより、当期純利益が不変であってもEPSは増大することになります。もちろん、このようにしてEPSを増大させたところで企業価値が創造されることはありませんが、EPSは投資家が重視する指標であることに加えて、業績連動型の報酬がEPS目標の実現によって決定されることが多く、特に米国ではEPSが非常に重視されています。
実際、積極的な自社株買いによりEPS成長率が当期純利益の成長率を大幅に上回るケースが米国では多く見られます。日本においても、コーポレートガバナンス改革の一環として、業績連動型の報酬制度の導入が推奨されており、米国と同様にEPSが報酬の基準になることになれば、EPS増大を目的とする自社株買いの実施が増加することになるでしょう。
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