まず、正確な走行抵抗データを取得するのに1カ月ほど要する。原則、型式指定の取得は申請した順になっており、型式指定を取り直す場合でも、申請した時点で最後にまわされる。さらに、型式指定には通常、申請から2カ月を要する。しかも、国交省は型式指定を取り消して再申請しても「全容解明と再発防止策が先」との姿勢で、三菱自の軽の生産・販売再開は、早くても秋頃にまでずれ込むとの見方が有力だった。
ただ、5月の連休明け頃から風向きが少し変わり始めた。三菱自は、軽を生産している水島製作所で従業員1300人を自宅待機とした。さらに、軽生産停止の影響は下請けにも広がっている。水島製作所の周辺には、体力の弱い中小・零細規模の2次・3次のサプライヤーが多い。岡山県が4月末に調べたところ、県内のサプライヤー15社が操業停止に追い込まれている。三菱自の生産停止が長引けば、これらサプライヤーが「バタバタと倒産する」可能性もある。
国内の新車販売にも大きく影響している。軽の販売が停止となった影響で、日産の4月の新車販売は前年同月比22.3%減、三菱自が14.9%減と大幅に落ち込んでいる。5月はさらに低迷する見通し。
政界の意向
これに敏感に反応したのが政界だ。日本全体の経済から見れば、水島製作所の軽生産停止の影響は大きくはない。ただ、デフレ脱却による経済成長を重視する安倍政権にとって、自宅待機や倒産が増えるなど、経済にマイナスの影響が出る問題は無視できない。しかも、今夏には参院選も控えている。業界関係者によると中国地方の議員を中心に、経済産業省に対して、軽自動車の早期生産再開を働きかけるよう要請しているという。
「三菱自は自主的に生産を停止している。指導したことは一度もない」と訴える国交省だが、外から見れば国交省が軽の生産・販売停止を認めないのは明らかだ。国交省には、永田町や経産省からの圧力が日に日に高まっていた。しかも、その後にスズキも燃費データの取得で不正を行っていたことが発覚すると、「国交省の目は節穴か」と長年にわたる不正を見抜けなかった国交省に対する批判も高まってきた。
追い詰められた国交省は、軽自動車の型式指定を取り消さずに、データの修正で事態の収拾を図ろうと調整に乗り出した模様だ。三菱自に対しては、国交省の機関が測定した走行抵抗データを示した。三菱自は自社の試験で、このデータと整合がとれれば燃費の修正を申請する。これによって早ければ7月にも軽自動車の生産・販売が再開される見通しとなった。