6月1日、安倍晋三首相は来年4月に予定されていた消費税率の8%から10%への引き上げを、2019年10月まで2年半、先送りし、同時に軽減税率を導入すると正式表明した。「増税の先送り」なので産業界も国民はおおむね歓迎ムードだが、増税直前の駆け込み需要も2年半先送りされたため「ガッカリ」している業界もある。主なところでは自動車、住宅、家電販売の3業種が挙げられるが、2年前には高額商品の駆け込み消費で潤った百貨店や、軽減税率の導入も含めたシステム改修の需要が消えた情報サービス産業にも影響が出そうだ。
2年前の増税前の駆け込み需要はインパクトが大きかった
前回、消費税率が5%から8%に引き上げられたのは14年4月だった。その後、当初は15年10月に10%に引き上げられる予定だったが、増税の時期は17年4月に延期され、さらに今回、19年10月に再延期された。
「増税の先送り」なので、国民も産業界もおおむね歓迎ムード。「残念」「増税しなくても財政は大丈夫なのか?」などと財務省の立場で物を言う人は、あまり多くはない。
だが、消費増税が先送りされると、その前に必ず出てくる駆け込み需要も先送りされる。業界、企業によっては16年度(16年4月~17年3月)の販売見通し、業績見通しの数字にこの駆け込み需要を織り込んでいたところがあり、これから予想数字の下方修正など対応に迫られることになる。
駆け込み需要は「需要の先食い」なので、増税直前に盛り上がった後、反動減がやってくる。それは前回の8%への引き上げの際に日本経済全体が経験済み。特に消費需要の盛り上がりと落ち込みの差が大きい商品として、自動車(新車)、住宅、大型の家電製品、百貨店の高額商品などが挙げられる。それとは別に、増税前に販売や会計の情報システムを新税率に改修する必要が生じて「消費増税特需」が現れる情報サービス産業も、駆け込み需要と同じ時期に多忙になる。
では実際に14年4月の消費増税前はどうだったのか。
自動車(新車)は、社団法人日本自動車販売協会連合会が発表する新車・月別販売台数(登録車)によると、14年1月に対前年同月比27.5%増を記録し、3月には約48万1000台が売れた。だが増税後の4月になると約18万9000台に激減している。
住宅は、国土交通省が発表する新設住宅着工戸数によると、増税半年前の13年9月に対前年同月比19.4%のピークをつけている。消費増税後に完成する物件でも9月30日までに成約すれば消費税率が5%でよかったためで、駆け込み需要が約半年、前倒しされていた。反動減も3月から始まっていた。