その需要に応えて、ICチップを商品に取り付けて瞬時に読み取るシステムも開発された。著者も当時、同業者の人たちと、そのシステムが公開された展示会に出かけ実演を見たことがある。システム的に問題はあったが、著者も含め一緒に見た同業者の人たちも「レジ時間の短縮など、省力化には強力な武器となることは間違いない」という感触を持った。
問題はコスト
そこで問題なのがコストだった。それも、システムやハードではない。媒体のICチップ(ICタグ)のコストである。
システムやハードの導入は一時的な費用だが、ICタグはリサイクルもできないわけではないが、消耗品として考えなければならずランニングコストになる。約30年前当時、ICタグ1個10円で、さまざまな業界の人たちが「それは高すぎる。とても導入できるコストではない」と開発企業に詰め寄った。なぜなら、「コストさえクリアできれば普及することは間違いない」と直感したからだ。
すると、開発企業の担当者から返ってきたのは「来年には5円くらいになると思います」という返事だった。「それでもまだ高い。せめて1円か2円でないと無理だ」というのが、業界共通の感触だった。ちなみに、その1年後に5円になることはなかった。
利益面でのメリットがないのに、なぜ?
ビジネスホテルでもセルフレジは急速に進んでいるが、どの業界でも「慢性的な人手不足」「人件費の節減」「現金を従業員に触れさせたくない」といった課題を少しでも解決したいからこそ、便利なシステムを導入したいのだ。棚卸、在庫管理や店間移動などの効率化では、物足りない。
ファストリも、同じ課題を抱えている。その課題を解決する妙案がセルフレジだ。しかし、ユニクロも含めた全店舗で展開できるのだろうか。できないとすれば、その理由は、ICタグのコストに尽きる。GUが採用するのは「ICラベル」だが、果たしていくらで仕入れているのだろう。ラベル代だけでなく、それを貼付する手間もかかる。
1枚1円+貼付代1円の計2円で済んだとしても、高額商品なら吸収できるかもしれないが、低額商品のGUには負担がかなり重い。もちろん、それ以外にシステムやハードの費用も発生する。
では、なぜ全店舗展開が遅れているのだろうか。それは、省力化のメリットが利益として反映されていないからだ。それでもセルフレジを展開したいのはなぜか。