その物件は首都圏ではありましたが、最寄り駅からバスを利用しなければならず、思ったように入居者が入らず、稼働率は常に半分程度でした。表面利回りは、あくまで満室になった場合を想定しているため、満室にならなければ架空の利回りです。そのため、3億円もの不動産を購入したにもかかわらず、手元に残る毎月のお金は20万円前後でした。マイナスではないことが救いでしたが、このままでは5年後、10年後などに必要となる修繕費を不動産収入から捻出することができず、将来多額の持ち出しになると不安になって相談に来られました。リーマンショック後の当時では、不動産価格も下がり、売ってしまうと借金だけが残るという恐ろしい事態になるため売却もできず、我慢して持ち続けるしかありませんでした。
この方が不動産を購入すると決断した理由が、フルローンの融資が出て、少ない元手で購入できるからというものでした。問題は、やはり「しっかりと物件を検討して判断していない」という点です。
最近でも、取引先のアパート建売業者の担当者からこんな話を聞きました。
ある不動産投資家が、都内の1億2000万円、表面利回り6.5%のアパートをフルローンの融資を受けて購入したのですが、融資の条件は期間30年、金利約2%。単純計算で毎月の家賃収入は満室で65万円、毎月の返済額は44万3500円。経費を引く前の段階で、家賃収入から返済を差し引くと20万6500円となるのですが、アパート運営上、実際は賃貸管理費や共用部の電気代、清掃費、固定資産税等の税金といった経費が必要になります。
そのうえ、その方は空室対策として賃貸管理会社に一括借り上げを依頼しているため、手数料として賃料収入の10~15%を引かれてしまいます。従って、この買い主の方は満室でも10万円程度、下手すると数万円しか、手元に残りません。給湯器の交換といった修繕費などで、2部屋分の賃料程度の費用が発生すると、その月の収支はマイナスです。
この話のポイントは、やはり「借りられるから、借りすぎてしまうこと」の怖さです。
こうした話は実によく耳にします。金利が低い今だからこそ現物投資である不動産投資が活発なのですが、その分やや割高な時期でもあります。くれぐれも「借りられるから買う」「借りられるから借りすぎてしまう」といった“融資の罠”にハマらないようにしてほしいと思います。
やはり、健全に「不動産を吟味して、あくまで購入の手段として融資を活用し、少しでも自己資金を入れて、借りすぎない」ことが不動産投資成功の鍵になります。
(文=秋津智幸/不動産コンサルタント)