ソニーやシャープも…電機業界、コロナ長期化見据え一斉に医療分野強化、開発・生産開始
日本国内はひとまず爆発的感染を抑えられた新型コロナウイルス(COVID-19)だが、世界的にはまだまだ収束が見えない。ワクチン開発が急ピッチで進むが、有効なワクチン開発にはさらに半年以上時間がかかるという見通しもある。その間にも流行の第2波が到来する懸念は残り、北半球が冬場に向かう今年後半からは新たな爆発的感染の危機も抱える。
こうしたなかで、電機業界ではコロナの影響が長期化することを見据えた動きが広がっている。医療市場への展開である。
もともと医療機器には最先端のエレクトロニクス技術が搭載されており、高度な電子機器という位置づけだった。コロナ感染拡大を契機に、こうした高度な医療機器だけでなく、クリーンルームを活用したマスクの製造や、金型技術を活用したフェースガードの製造などの動きも出ている。
本稿では、コロナショックを機に、いっせいに医療分野に展開して新たなビジネスチャンスを見いだそうとしている各社の事業展開の動きをまとめてみた。
大手の医療事業での取り組み
キヤノンはもともと医療機器事業に注力しており、さらに今回のコロナ感染拡大を機に、子会社のキヤノンメディカルシステムズ(栃木県大田原市)において新型コロナウイルス向けの検査システム開発を進めた。これは国立研究開発法人の日本医療研究開発機構が行う研究へ参画しているもので、陽性検査の迅速化の実用化検査を進める。
ちなみにキヤノンメディカルシステムズは、前社名が東芝メディカルシステムズ。2016年12月からキヤノン傘下となり、18年1月から現社名となった。東芝が手放した医療機器事業をベースに、X線診断システム、CTシステム、MRIシステム、超音波診断システム、放射線治療装置、核医学診断システム、検体検査システムなど幅広く医療機器・システム事業を手がける。
ソニーも医療機器事業で動きがあった。子会社のソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ(東京都港区)において、需要がひっ迫している人工呼吸器の受託生産を始めたのだ。アコマ医科工業(東京都文京区)が開発した製品を受託生産するもので、7月から量産を開始、9月中に500台を生産する。状況に応じて、今後は他の人工呼吸器メーカーからの生産受託も視野に入れている。
もともと医療事業を柱事業のひとつとしているオムロンは、コロナ感染拡大で需要が拡大している体温計を増産している。これまで体温計は中国のオムロン大連で生産していたが、国内のヘルスケア事業を担うオムロンヘルスケア(京都府向日市)の松阪工場(三重県松阪市)でも体温計の生産を開始している。増産とともに、国内需要を国内生産で賄う動きとしても注目される。オムロンヘルスケア松阪工場では年産300万本を目指す。中国大連では年間1000万本の生産量があるため、オムロン全体でも生産能力は3割増えることになる。
業界各社がクリーンルームでマスク生産に参入
シャープが自身のECサイト「SHARP COCORO LIFE」を通じてマスクの販売を開始、受付初日の4月21日にはアクセスが殺到してサーバがダウンしたのはニュースにもなった。シャープは、三重工場(三重県多気町)のクリーンルームで3月からまず医療機関向け(日本政府経由)にマスク販売を行い、前述のように現在は個人向け販売も行っている。
モータや軸受けなどを製造するミネベアミツミも4月からマスクの自社生産を始めた。製造はやはりクリーンルームがある国内の浜松工場(静岡県袋井市)と中国の上海工場で行っており、当初は従業員に供給、従業員に行き渡った段階でインターネットを通じて外部販売も始めている。
ヘリオステクノホールディングは、印刷機械などを手がける子会社、ナカンテクノ(千葉県佐倉市)にマスクの試作ラインを敷設したのに続き、露光装置用光源ユニット、プロジェクター用ランプ、LEDランプなどを生産する主力事業子会社、フェニックス電機(兵庫県姫路市)にも生産ラインを敷設した。製造した不織布マスクは、5月からフェニックス電機の本社がある姫路市と協力して地域の病院、福祉施設などに供給、その後、全国販売も始める。ほかにもブラザー工業も瑞穂工場(名古屋市瑞穂区)に不織布マスク生産設備を導入、マスクの生産に参入するなど各社で動きが出ている。
生活用品から家電、そしてコロナ対策製品へ
最後に、電機業界の企業とはいえないが、アイリスオーヤマ(仙台市青葉区)について触れる。
同社は生活用品の開発・製造・販売を行うなか、このところ家電など電機製品にも展開していたが、コロナの感染拡大を機にコロナ後の社会をにらんだ動きを進めている。
AIカメラ、AIサーマルカメラを市場投入、カメラ事業に参入したのがそうした動きのひとつ。人間の体温を計測するAIサーマルカメラについてはコロナ感染が長期化するなかで注目が集まっており、多くの施設での導入が見込まれる。こうした需要を掘り起こす構え。
またマスクの製造も行っている。中国の2工場(大連市、蘇州市)での生産に加え、6月からは角田工場(宮城県角田市)での国内生産も開始、輸入に頼らない供給を目指している。
もともと生活必需品などの生産と直営販売などで急成長してきたなか、近年はLED照明やテレビで家電に注力、さらにコロナ後の社会を見据えた動きを始めている。
(文=高橋潤一郎/クリアリーフ総研代表取締役)