定着へのカギは「客層と客単価」
近年のコメダは、長年変えてこなかった定番メニューの幅を広げる戦略をとっている。代表的なのが看板メニュー「シロノワール」(同730円)の派生商品だ。本連載でも何度か紹介してきたが、期間限定で販売されるチョコソフトを使った「クロノワール」(同730円)を、渋谷宮益坂上店では定番メニューとして加えた。同じく本来期間限定の「ベリーノワール」(同780円)も同店では定番化しており、いずれも200円安いミニサイズもある。
また、夏季限定で「かき氷」もあり、こちらは同410円のいちご氷から同800円の抹茶&小倉・練乳・ソフト氷まで揃えている。こうしてメニューや価格を見てみると、女性客を意識したメニューの充実と、一般的なコメダの店舗に比べて高価格であることもわかる。
そこから透けて見えるのは、2つの「実験」だ。ひとつは、従来のコメダが得意でなかった「都心部で働く女性の取り込み」、もうひとつは「一等地のビルイン店舗での収益性」だ。
働く女性たちに話を聞くと「飲酒後にスイーツでシメたいけれど、都心にはそうした店が少ない」という声も時々耳にする。こうした層を取り込めるかどうかがポイントだ。
15年9月にコメダが調査した結果によれば、コメダの来店客の年齢構成は20代以下が27%、60代以上が28%と、若者と年配者が過半数を占めるのに対して、30代は14%、40代は17%、50代は14%にすぎない。従来店は、働き盛り世代への浸透率が低いのだ。
一方、経営の視点で考えると、一般的に客単価の低い喫茶店は都心ビルの家賃負担が重くのしかかる。セルフカフェのように客席回転率や持ち帰り率を高められないフルサービス店ゆえ、渋谷宮益坂上店では単価を上げて利益を生む仕組みにしたのだろう。開業して1カ月弱だが、当初の計画を少し上回り順調な滑り出しだという。
こうして考えると、渋谷宮益坂上店は従来のコメダが得意だった、店の敷居を低くして幅広い世代を集客するという戦術を一部捨てた感がある。そうなると、「コメダ珈琲店」の名称でやる意味があるのだろうか。かつて同社は、高級喫茶「吉茶」という店も展開したが(現在は閉店)、個人的には別の名称のほうが目的も明確になると思う。新業態では細かな修正もつきものだ。地道にスタートしたのも大人の戦術かもしれない。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)