本連載前回記事において、「小売業は金融サービスを始めたがる」という傾向があり、顧客データベースを持った小売業が始める金融サービスは、必ず成功するという法則を見てきた。
だが、小売業の金融サービスには問題がある。
利益率が低く、場合によってはスーパーのように粗利益1円、2円の違いが総利益率に影響する小売業をやっていると、利益率も利益額も高い金融サービスを始めることで、小売業という商売がバカらしくなってくるのだ。「バカらしくなる」という言葉には語弊があるかもしれないので、もう少し実際に近い説明をすれば、本業が大事だと思っていても、無意識のうちに、利益性の高い金融サービスへの投資を優先してしまう。
いや、「無意識」という言葉も間違っているかもしれない。投資効果の高いセグメントに投資をするのは、企業価値向上を求められる経営者としては当然のことだ。だから、システム改善、あるいは人材確保においても、利益が高く収益に貢献している金融事業のほうを優先してしまうのだろう。
その結果として、米シアーズや英テスコのように、店舗がなんとなく薄汚れた感じになり、店員の数も減り、サービスも悪くなる。活気のない店舗からは顧客が離れていく。
米国のように株主を最重要視する市場環境にあると、株価を上げるため、ゼネラル・エレクトリック(GE)のジャック・ウェルチ元CEO(最高経営責任者)がしたように、製造業よりも金融事業のほうを積極的に進めるようになるのは経営者としては当然のことかもしれない。そして、金融事業の営業利益への貢献が3割、4割を占めるようになるとともに、本業への投資が目減りし、よって本業の売り上げがさらに減ることにつながっていく。
企業がビジネスの中身を変えることはある。富士フイルムは創業時の事業だった写真フィルムからヘルスケア事業に転身しようとしている。ミクシィは日本のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の草分け的存在だったが、今ではゲーム会社に転身。ゲーム事業の売り上げ、利益共に全体の90%を超えている(2016年3月期)。だから、小売業者が金融業者に転身しても構わないともいえる。